# このライブ/このコンサート2014海外編#01
『アルド・チッコリーニ ピアノ・リサイタル』
2014年6月18日 東京芸術劇場
text by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
11月21日時点。2014年に接した全てのコンサートを洗い出した上で以下に絞り込む。ゲルハーヘルのシューマン歌曲の夕べ(1月)、尾高忠明&札幌交響楽団のシベリウス(3月)、広上淳一&京都市交響楽団のマーラー他(3月)、大野和士&リヨン歌劇場管弦楽団の「ダフニスとクロエ」他(6月)、インバル&都響のマーラー:第10<クック版>(7月)、ミンコフスキ&都響のビゼー(8月)、エマールの平均律(10月)。しかしこれらの驚くべき名演奏のさらに一頭地上を行くような奇跡的なコンサートがあった。それをベストと呼ぶことに何のためらいもないのだが、それはチッコリーニが6月に東京芸術劇場で行なったリサイタルである。誤解のないように書いておくが、あと2ヶ月で89歳にならんとしている、ピアノを弾いていない時にはいささか頼りなさげな老人にしか見えぬこのピアニストがこの年齢でこれだけ弾けるのが驚異的だ、などという話ではない。と言うよりも、現役ピアニストの中でこれだけの高みにあるピアノ音楽を奏でられる人は他にいるまい、と思わせるような出来栄えなのであった。その音は軽やかかつしなやかでありながらも含蓄と深みがあり実に美しく、曲と場面に応じて音色と表情は巧みに変化する。楽曲の構成感、造形も見事の一語(思えばこのピアニストのベートーヴェンのソナタ録音は実に見事だった)。こう書くと一流ピアニストなら当たり前のように思われるかも知らぬが、必ずしも当たり前ではない。確かに数年前のピアノに比べればさらに音量は下がった。指が回り切らない箇所がないとは言わない。それがなんだ。全体としては確実に上手くなっている。音楽が良くなっている。当日の正規プログラムは4曲(ブラームス、グリーグ、ボロディン、カステルヌオーヴォ=テデスコ)。これらもさることながらアンコールが絶品中の絶品としか形容できない。ドビュッシーの「ミンストレル」での茶目っ気に頬が緩み、スカルラッティのソナタでは繊細極まりない音色とタッチのコントロールで完璧なミニチュアールを造形し、そしてファリャの「火祭りの踊り」では交差する派手な両手の動きにあっけに取られながらその芝居っ気に感嘆。より背中は曲がってしまったしステージの行き来には杖をつく。でも来年の90歳記念ツアー(!)での再来日の話も聞く。恐らく今回よりもさらに素晴らしくなっているに違いない。どうかいつまでもお元気で。そして100歳まで弾き続けて下さい。
藤原聡 Satoshi Fujiwara
代官山蔦屋書店の音楽フロアにて主にクラシックCDの仕入れ、販促を担当。クラシック以外ではジャズとボサノヴァを好む。音楽以外では映画、読書、アート全般が好物。休日は可能な限りコンサート、ライヴ、映画館や美術館通いにいそしむ日々。要は気楽な趣味人。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.