# このライブ/このコンサート2015国内編#02
『Sound Live Tokyo 奇跡』
2015年10月2日(金)青山 草月ホール
text by Takeshi Goda 剛田武
作曲・指揮:灰野敬二
演出・設計:危口統之
演奏:愛甲太郎、青木理紗、青山稔、網守将平、綾門優季、安藤唯、石堀善子、市原亮、伊藤洋志、今村真紀、上田由至、上原英二、宇川直宏、遠藤純一郎、及川志穂、大口遼、大沢直樹、岡田拓也、岡田勇人、岡村直太、岡村裕次、岡本ゆうき、貝塚伊吹、垣谷文夫、角銅真実、加藤みほ、上村聡、上村大悟、川口雅巳、河田美香、菊地啓介、木下毅人、木村瞳、ニコル・ギャラガー、楠田ひかり、工藤浩巳、久野ギル、マイク・クベック、栗田一生、黒澤雅俊、ケンジルビエン、剣持寛子、コウダケンタロヲ、小林このみ、小林類、小柳多央、小山まさし、近藤和明、佐々木ののか、佐藤英里子、柴田聡子、嶋崎朋子、島田果奈、島貫泰介、清水享、城李門、白藤清純、新川貴詩、鈴木英倫子、鈴木恒彦、鈴木朋子、鈴木美紀子、寿美雄太、たかはしそうた、高橋貴子、高山玲子、竹田英昭、武谷あい子、玉柳輝樹、辻勇樹、辻村優子、中田博士、中野成樹、中元徹、中山晃子、西井夕紀子、Yuko Nexus6、捩子ぴじん、野津あおい、林歩美、原田淳子、H.I.G.O、平田知之、福井豊、福田絵里、ホシマリ、前島ももこ、眞木修、松井祐次郎、松本晴朗、三浦翔、三鶴泰正、宮崎輝、ミヤムラヤスヲ、森夕雨子、森川あづさ、森重靖宗、矢野昌幸、山崎怠雅、山田哲士、山本寛介、吉家あかね、吉田アミ、吉田萌、善積元、吉水佑奈、和田信一郎
設計施工:石川卓磨、河本洋介、井出亮太、山本ゆい
調律:岩本尚子(株式会社松尾楽器商会)
打鍵検出回路:堀尾寛太
舞台監督:佐藤恵
制作:藤井さゆり
ケータリング:菅野信介、橋本富夫(アマラブ)
録音:中村公輔
映像撮影:松尾健太
写真撮影:前澤秀登
協力:有馬純寿、田部井美奈、イトケン
ジョン・ケージの「4分33秒」がピアノの鍵盤を「一切弾かない」ことで成り立つ作品だとすれば、その反対は何か?と考えて灰野敬二が出した回答が「全部弾く」こと。つまり88人の演奏者がそれぞれ1本の指で、1台のピアノの88鍵を同時に弾くというもの。一見荒唐無稽なアイデアを、実現させるプロジェクトがSound Live Tokyo 2015の最初のイベントとして開催された『奇跡 Miracle』だった。
この「ライヴ/コンサート」の記録としては、演出・設計担当の危口統之による「演出ノート」が最も詳しい。また、そこにリンクされた「感想ツイートのまとめ」を見れば企画者・作曲者・演出者・演奏者・観客等による体験や感想を時系列で検証できる。
筆者はこのプロジェクトに「演奏者」のひとりとして加わった。しかし実際に音楽を「演奏」した訳ではなく、演奏の手助けをした過ぎない。コンサート当日はステージ上で、この作品の世界初演に参加?演奏?手伝い?体験?した訳だが、果たしてそれがどんな意味があったのか、未だに判然としない。少なくとも、2015年最も印象に残ったライヴ/コンサートであることは間違いない。
蛇足かもしれないが、筆者なりの体験記を残しておこう。
灰野敬二があっと驚くようなプロジェクトを始める、と聞いたのが2015年春。5月13日「実験(秘密)」という謎めいたリハーサルに参加した。子供連れも参加し、「遊び」に近い和気あいあいとした雰囲気だった。
コンサートが近づいた9月28日夜に横浜国大で行われた「実験」では高さ3メートルの櫓が組まれ、棚板の隙間のスペースに人間が何人入れるか試された。楽器演奏ではなく収納実験。文字通り「練習」ではなく「実験」である。スーパームーンが見下ろしていた。
本番前日草月ホールでのリハーサルで、初めて本物のピアノ(傷つけると何百万円)が設置され、囲い込む砦のような櫓が姿を現した。演奏者の配置が検討され、各自の役割分担が決められた。筆者は上段の棚から身を乗り出してピアノを弾くプレイヤーの足を押さえて落ちないようにする役割。本心では実際に音を出す役をやりたかったが仕方がない。
当日のゲネプロで、全員の指が鍵盤に届くかどうかの確認。様々な問題が発覚するとともに、人と人が重なり合って圧縮される物理的・体力的な問題もあり、準備万端とは言えず、本番にならないと何が起こるかわからない。開場して観客が入る頃になると、なんとなく緊張と期待が入り混じった気持ちになる。
開演の合図で客席を通ってステージへ向かい、櫓の最上部へ上がる。目立つ場所なので、観客の視線を意識して、自然に真剣な顔になる。スタンバイの合図でプレイヤーは次々鍵盤に腕を伸ばす。最上部のプレイヤーは、さながらダイバーのように、折り重なる人体の海へ無理矢理身体を突っ込み捩じり込む。筆者の担当は最後の一人。必死にピアノ海溝へ潜るプレイヤーの落下を防ぐために、筆者も必死で足を押さえた。中がどういう状態になっているかは想像もつかない。プレイヤーじゃなくてよかった、と思った。
すべての鍵盤が弾かれたかどうかは、レーザーで判定する。何度かトライしたが最後まで判定ランプが点灯することはなかった。ピアノの真上にいても、鍵盤が鳴る音は、人体で密閉されてほとんど聴こえない。
結局「奇跡」は起らないまま、終了の声に、ピアノの櫓から降りてステージ前に並んだ。ああ終わった、と言う以外、何も考えられなかった。客席からの鳴り止まない拍手の理由がわからず、非現実的な気分がした。
2015年9月28日(月) 神奈川国立大学 実験
2015年10月1日(木) 草月ホール 前日リハ
2015年10月2日(金) 草月ホール 当日リハ
危口統之によるセッティング図
関連リンク
Sound Live Tokyo『奇跡』
http://www.soundlivetokyo.com/2015/ja/miracle.html
危口統之の演出ノート
http://kiseki-haino.tumblr.com/
剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。7,80年代東京地下音楽に関する書籍を執筆中。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01
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#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
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「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
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#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
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