#  このCD2015海外編#02

『Chris Pitsiokos & Philip White - Paroxysm』
text by Takeshi Goda 剛田武


Carrier 029

Chris Pitsiokos (as)
Philip White (electronics)

1. Part I
2. Part II
3. Part III
4. Part IV
5. Part V
6. Part VI

All music by Chris Pitsiokos and Philip White
Recorded, mixed and mastered by Philip White
Recorded at JACK in Brooklyn, NY
Art by Paola Hivelin

21世紀の精神分裂者の交歓レビュー

昨年に続いて「NYに現れた21世紀型阿部薫」 (JazzTokyo 横井一江)=クリス・ピッツイオコスのアルバムを選出したい。「ジャズ」的には自己のアコースティック・トリオのデビュー作『Chris Pitsiokos Trio/Gordian Twine』がベストだが、2015年のキーワードを「交歓」と考える筆者としては、サックスとエレクトロニクスの交歓ドキュメントの本作こそが相応しい。頭の中の三重人格によるクロスレビューで検証してみた。

<REVIEW #1>
ニューヨーク即興シーンに彗星のように現れたアルト・サックス奏者クリス・ピッツイオコスとベテラン電子音楽家フィリップ・ホワイトによる即興セッションを収録。2013年夏に初共演した二人は、すぐにお互いの演奏スタイルと音楽観の相似を認め合い、影響されたジャズ/現代音楽/ノイズから有機的な共通音楽言語を構築した。同年12月にその成果をスタジオで録音してこのアルバムを制作――ホワイトによれば“記録”し“蒸留”した。軋みを上げるサックスのフリークトーンと鈍器のような電子ホワイトノイズの二重唱は、ジャズやノイズやインプロといったジャンルには収まらない、音と音の対話である。しかし、例えば高柳昌行と阿部薫の『解体的交感』に顕著な精神性や闘争心、自己顕示欲とは異なり、物体(オブジェ)としての音響で三次元のキャンバスに立体絵画を造形するサウンドアクション彫刻により、表現欲求を客体化し自己を対象化することに成功している。ここに描かれた“屹立した魂の親和性”と“厳格なる共感(シンパシー)”こそ、同時代芸術の進化の先の地平を目指す旅人の羅針盤となるに違いない。(源静香)

<REVIEW #2>
プレイボタンを押した途端に鋭利なフリークトーンの刃が耳殻を突き刺す。不意打ちのショックに聴覚を失うのも束の間、すぐにざらつく電子ノイズが共振し、両者の摩擦熱が脳に鑢を掛ける。高速タンギングが空気の波動を分断し、窒素と酸素を分離した為に、精神的無呼吸状態に陥り窒息寸前の切羽詰った前頭葉に電磁音が注入され、不規則なモールス信号でSOSを発信する。しかしながらU字管の奥から現れた通奏低音は自ら痙攣するばかりで、不自然なまでに震える灰色の肉塊の表皮に幾重にも刻まれた襞の隙間に、潤滑油代わりのゼリーを刺すことなど在り得ない。入れ代わり立ち代わり襲い掛かる二匹の節足動物の有毒な体液で腐食した脳幹から滴り落ちる錆の飛沫が付着した部分には、三回記に目映いばかりの水仙の華が咲き乱れた。(骨川スネ夫)

<REVIEW #3>
小学生の頃セキセイインコを飼っていた。親戚の家で生まれたヒナを貰って来たのだ。湯に浸したエサを小さな匙でくちばしの中へ差し入れると、子供の掌よりも小さなヒナは嬉しそうに啄んだものだ。そうやって慣らしたヒナは懐き、成鳥になり籠の外へ出してやると喜び勇んで部屋中を飛び回った後、おもむろに肩や頭に留まってさえずるのが常だった。幼い頃からインコのさえずりが好きだった。カナリアの鈴の音とも十姉妹の澄んだ高音とも異なり、セキセイインコの鳴き声は、濁音混じりの粗野なおしゃべりだった。ぐちゃぐちゃぎゃぎゃぎゃぐぬぐぬじぇじぇじぇ...いつまで聴いていても飽きることが無い鳴き声は、歌や音楽よりも垂れ流しの騒音(ノイズ)に似ていた。

鳥は自らの意志でさえずるのではない。生殖本能で鳴くのである。“鳴かぬなら鳴くまで待とう〜”という川柳があるが、鳴いて雌を呼び寄せ交尾しなければ、子孫を残すことが出来ずに滅亡してしまう。“歌う”のではなく“歌わざるを得ない”のだ。それは発作による癲癇や痙攣や咳と同じく意志ではコントロールできない。初めてアルバート・アイラーやマーシャル・アレンを聴いた時、激昂したサックスのフリークプレイに幼い頃に馴染んだセキセイインコのさえずりを思い出した。その時、自分にとって理想の音楽はセキセイインコのさえずりだと確信したのである。しかしながら、自らの意志を介さずに永続して音を出し続けることは至難のワザ。未だかつて理想の"セキセイインコ的“演奏家”に出会ったことは無い。

このアルバムで聴けるサックスとノイズの交歓は、今まで聴いた中では最もセキセイインコに近い。タイトル通り「発作」的に発せられるふたつの音の無作為な連続は、つがいのインコが仲睦まじく呼び合う様を彷彿させる。しかし二羽は愛ではなく、種の保存の為に声を交わすだけなのだ。残念ながら人間のピッツイオコスとホワイトの二人は本能だけで交歓するわけではない。人間を捨てることが出来ればセキセイインコになれるだろうが、逆に言えばそれが出来ないからこそ、ここに収められた音が同じ人間の心にざわつく感情の波を齎すことは間違いない。これほど人間的な発作なら大歓迎である。(野比のび太)

参考リンク
FIVE by FIVE # 1190NYハードコアジャズの新星クリス・ピッツイオコスの新作2作
http://www.jazztokyo.com/five/five1190.html

FIVE by FIVE # 1224『Chris Pitsiokos Trio/Gordian Twine』
http://www.jazztokyo.com/five/five1224.html

剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。7・80年代東京地下音楽に関する書籍を執筆中。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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