#  このライブ/このコンサート2015海外編#02

『郡上八幡音楽祭2015
超フリージャズ・コンサートツアー
エヴァン・パーカー×土取利行×ウィリアム・パーカー』
2015年7月22日(水) 青山 草月ホール
text by Takeshi Goda 剛田武

フリージャズって言ってみろ

『フリージャズ』という言葉にはアンビバレントな気持ちを抱く。鬱々とした受験生時代にアルバート・アイラーやオーネット・コールマンやオリヴァー・レイクを知り、“何でもあり”の自由な音楽表現に興味を惹かれた筆者は、一浪して入った大学の音楽サークルの新歓コンパで、自己紹介カードに「FREE JUZZやります」と書いて意気揚々として望んだが、誰にも相手にされず、ヤケ酒でひとり泥酔して潰れた。

軽音研(ジャズ研)で「オーネット・コールマンが好き」と言ったら先輩に鼻で笑われた記憶があるが、もしかすると後で捏造された被害妄想かもしれない。いずれにせよ、大学内では思うような“何でもあり”の自由な音楽活動は諦め、遊びでフランク・ザッパやほぶらきんやフレッド・フリスのカヴァーをするに留めることにした。

大学の外の世界では、荻窪グッドマンの即興道場で会ったギタリストと即興ユニットを組んで吉祥寺ぎゃていを中心に活動した。しかし彼との会話でフリージャズという単語が出ることは少なかったと記憶する。常にアルバート・アイラー/ジャンゴ・ラインハルト/デレク・ベイリー/阿部薫/ジミ・ヘンドリックスなど固有名詞で話していた。たぶん「ジャズ(JAZZ)」という旧式なイメージの強い言葉を口にするのが面映かったのだろう。

就職してからもフリージャズを好きなことは殆ど人に話したことはなかった。パンクやサイケやプログレにハマっていたせいもあるが、やはりある種の烏滸(おこ)がましさを感じたのかもしれない。大学時代に愛聴したESP DISKやALMやモルグ社のレコードを聴く回数も減って行った。

しかし21世紀になってライヴハウスに足繁く通うようになって、フリージャズのミュージシャンと遭遇する機会が増えた。特に地下音楽/ノイズ/アヴァンギャルドのライヴの共演や対バンでそうした音楽家が演奏する場合が多く、ロックやジャズといったジャンル分けに関係なく、異端音楽精神が共通することを実感した。

音楽情報サイト『Jazz Tokyo』に記事を書きたいと売り込んだのは、そうしたフリージャズ系アーティストをネタにして、地下音楽やノイズを紹介しようというちょっと不純な動機からだった。だからジャズとは呼べないアーティストのことを好き勝手に書かせてもらっていたのだが、2014年秋にYouTubeで<発見>したニューヨーク即興シーンに驚愕し「ハードコア・ジャズ」と命名してしまった経緯は、昨年の筆者の「このCD 2014」を参照いただきたい。

それを契機に2015年は臆面もなく「フリージャズ」と口にするようになった。何故か世の中でもフリージャズの字面が目立つような気がして、初めて自分が時代とリンクしたと錯覚するには十分なインパクトがあった。

その中で最も象徴的だったのは岐阜県郡上市で開催される郡上八幡音楽祭に招聘された超フリージャズ・ユニット 「超フリージャズ・コンサートツアー」だった。「超」(ウルトラ/スーパー/シュール)と文字にすると多少<痛い>が、草月ホールで繰り広げられた三者の交歓は、俄作りでは有り得ない、フレッシュなクロスプレイが連続して飛び出す芳醇な時間だった。エヴァン・パーカーの流麗な弾丸タンギングとミニマルな循環呼吸奏法、土取利行のスリル満点の乱打ドラム、慈愛に満ちたパルスを放ち続けたウィリアム・パーカーのウッドベース。構成は単純だが、演奏が進むにつれて、三者の感情の深みの渦が聴き手の心の中に浸み渡っていった。それと共に心の中の「FREE JUZZ」への蟠(わだかま)りが紫の煙になって消えて行くのを感じた。

フリージャズを超えたかどうかは分からないが、この興奮を言い表すのに「フリージャズ」が相応しいならば、何百万回も唱えても構わない。(剛田武)

<参考リンク>
*このCD2014海外編#02『Chris Pitsiokos, Weasel Walter, Ron Anderson / MAXIMALISM』
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2014b/best_cd_2014_inter_02.html

剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。7・80年代東京地下音楽に関する書籍を執筆中。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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