Vol55
ギュンター・ハンぺル
スタジオ「リヴィー」NY
1972
text by Seiichi SUGITA



 ニュー・ジャズって何だったっけ?
 いまや死語ですよね。もともとカテゴライズとか、ジャンル・プロパーとかってなじめないんだけれども、本当に、ニュー・ジャズって何なんだろう。
 最も日本でニュー・ジャズなるものが脚光を浴びたのは、1970年代の初め頃__。新宿<ピット・イン>の裏の2階に<ニュー・ジャズ・ホール>なるものがあった。妙に陰湿でほとんど足を踏み入れたことはないのだけれど、どうやら、<ニュー・ジャズ・ホール>での演奏が、ニュー・ジャズなるものだったのかしら?どうも未だに分からんのが、山下洋輔が<ニュー・ジャズ・ホール>に出演したというハナシを聞かない。山下洋輔が出るのは、あくまでも<ピット・イン>なのです。
 どうやら、山下洋輔はニュー・ジャズというジャンルには入らないようなのだ。
 富樫雅彦のESSG(実験的音響空間集団)なんかは<ニュー・ジャズ・ホール>に出ていたのにね。どうも、よく分からん。
 ニュー・ジャズを明確に標榜しているのは、ドイツのメルス・ジャズ・フェスティバルではある。山下洋輔トリオが、ヨーロッパを席巻したのは、メルスのニュー・ジャズ・フェスティバルである。山下洋輔は、ドイツというか、ヨーロッパではニュー・ジャズだけど、日本では、ミソもクソもいっしょくたにされたくはないってことなのかしら?
 で、ぼくが初めてニュー・ジャズというジャンルを意識したのはドイツのMPS。オスカー・ピーターソン(p)をガンガン出していたのでよく知られている、あのMPSです。実は、サン・ラ&ソーラー・アーケストラも出しているほど、フトコロは深いのです。そういう意味では、同じくドイツのENJAも、狭義の意味での(日本でいうところの)ジャズに、奇妙な執着を示さない。何せ、山下洋輔トリオをヨーロッパに紹介したのはENJAである。
 MPSがニュー・ジャズとして強力に押したのがギュンター・ハンペル(vib)。バイブといえば、エンターテインメント性が高いライオネル・ハンプトンはまあ、ハズしたとしても、ミルト・ジャクソン、ボビー・ハッチャーソン、ゲイリー・バートンの3人は、“ワン&オンリー”として誰もが認めるところ。楽器の完成度の高さを超えた、固有のスタイルをそれぞれ確立している。
 ハンペルはそのどのスタイルにも属さない。ゾクっとするほど緻密で繊細なのだ。フリー?コンテンポラリーの手法を取り込んでいるのだけれども、独特のタイム感覚を永続しつつ、何よりもよくうたっている。

 

 ハンペルは1937年生まれ。建築家でもある。ジャズの手ほどきを直接受けたのは、巨人ソニー・ロリンズで、バイブの他にフルートとバス・クラもこなす。レコード・デビューは64年『ハート・プランツ』(MPS)。
 ハンペルの生と初めて出会ったのは、72年、サム・リバースのロフト<リビィー>である。当時のハンペルは、“ギャラクシー・ドリーム・バンド”を率いて、次々に自らのレーベル、Birthで、より精緻な“うた世界”を展開している。
 その夜のスリリングなギグは、妻君ジーニー・リー(1939~2000)とのデュオ。ジーニーの代表作は何といっても『サマータイム』(RCA)。デュオ・ナンバーは、いずれもオリジナルのインプロバイズド・ミュージック。ピーンと張りつめた精緻な音空が本当にたまらない。唯一、聴き覚えのあるメロディーが、ぼくの肉体をニュー・トリノのように湿潤する。鮮烈な衝撃が感光のように走る。
 ボサ・ノバの悲しい名曲「ジン・ジー」である。限りなくクールなバイブ音に、生らかに乾いた肉声がセクシーにからまる。その肉声は、ボーカルとボイスとの境界線をめくるめく持続する。その深い交感は、“うた世界”の永続革命の終りなき予感である。
 実は先頃、 ベルリンをホーム=根拠地として活動しているNobuyasu Furuyaがフルートを携えて、ぶらりと我がBitches Brewへ遊びに来てくれた。正直いって開店以来初めての衝撃である。マジに感光が再び肉体を貫いた。本当にぶっとんだ。CD『Stunde Null』と『Bendowa』(Clean Food)をいただく。こいつがまたスゲ?!! こんな出会いはめったにあるもんじゃない。
__ギュンター・ハンペルは、まだ頑張ってる?
「最近はバイブじゃなく。リードに執着してるようです」
__ヨーロッパのいわゆるニュー・ジャズって今はどうなの?
「もう、とっくに終わってますよ」
 で、結局、ニュー・ジャズって何だったっけ?

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://bbyokohama.exblog.jp/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.k5.dion.ne.jp/~sugita/cafe&bar.html
及川公生のちょっといい音空間見つけた >>

♪ Live Information

9/02 Thu 木村イオリ(p) 木村仁星(key)
03 Fri 平山順子(as) 楠真紀子(p)
04 Sat いのくちゆきみ(vo) KANA(fl) 名取俊彦(p,g)
09 Thu 金剛 進(ts) 林あけみ(p)
10 Fri 佐藤綾音(as)
11 Sat Soon Kim (as) 板倉克行(p)
15 Wed 望月 孝(per,g,vo) トオイ・ダイスケ(b,p) 野口ZZヤスツグ(p,pianica) あらかわマキ(vo)
18 Sun 岡 恵美(p) 仲石祐介(b)
19 Sun 小島伸子(vo) 金井英人(b) 田村 博(p) JUNマシオ(MC,perc)
24 Fri 佐藤綾音(as)
25 Sat 金剛 進(ts) 林あけみ(p)
26 Sun ジャム・セッション:名取俊彦(p) 田富美咲(b)
29 Wed Soon Kim(as) 石井康二(b) 宇野光俊(el-b)
29 Sun ジャム・セッション:
名取俊彦(p) 仲石祐介(b)
30 Thu 佐藤綾音(as)
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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
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