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Vol7 十年に一人の逸材 | |
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このノン・ジャンルの時代に、いまだにクラシックとJAZZとは別物と思っている人が、たくさんいる。しかし、このジャンルというカテゴリィーは、人間が、音楽の発展プロセスとともに後付で決めたものに過ぎない。ノン・ジャンルという表現そのものが、しゃらくさい。
Sarahという未完のバイオリニストは、ものの見事に、この領域を凌駕したプレイヤーである。
私は、元来、一緒に演奏をして、驚くことはあまりない。
しかし、Sarahの繊細かつ大胆な表現力と縦横無尽に旋律を生み出す創造性には驚嘆した。
因みに、私が今までに、驚きを覚えたプレイヤーを列挙すると、(年の瀬なので振り返って)
まずは、オーストラリアのオペラハウスの日豪交流記念で共演した笙の奏者 真鍋 尚之氏。笙という日本古来の楽器は、通常和音でしか演奏しない。できない。しかし彼は、笙で短音を吹きこなす。そしてまた、初見が凄い。笙の奏者は、イコール笙の製作者である。伝統的にそういう仕来りである。だから彼は、笙を作る段階で、短音を吹きやすいように作っている。それもこれも含めて、私には驚嘆すべき事だった。
二人目は、ブラインドレモンの太郎ちゃん。ご存知の方も多いと思うが、ハーモニカプレイヤー。彼が、まだ8才の時だ。私のユニット(G2usジーニアス)で、ブルーズ・ハーピストの妹尾隆一郎氏とバラードをやっていた。そうそう「I Still・・・・」という非常に難しいコードチェンジの曲。妙な転調もある。そこに、太郎ちゃんがお父さんと一緒にやってきた。お父さんに促されて、突然、乱入してきた。勿論、太郎ちゃんは曲を知らない。聞いたこともない。
にもかかわらず、主旋律を、一回しやった後、妹尾隆一郎氏がソロ一回しをやってすぐに太郎ちゃんにソロを振った。やったこともない曲いきなりなんて、ほとんどいじめーー
しかし、なにを、なにを・・・・コードチェンジの輪郭を見事になぞったまま、実にエキセントリックなソロを展開した。これには舌を巻いた。彼には、無意識で曲構成を理解する能力がある。演奏が終わった後で妹尾氏が、私の耳元で「負けた」と一言ささやいたのが未だに忘れられない。確かに、彼はマジで言っていた。
三人目は、アラン・ホールズワース。言わずと知れた超バカテク・ギタリスト。 7フレットを押さえ込んだ幾何学的なフレーズは、古今東西どこを探しても、唯一無二だ。7フレットにわたるギターの指板を押さえられる指が、蜘蛛のようだ。そして非常に長く見える。途轍もなく長い指をしているのだと思った。演奏が終わった後、楽屋で掌を合わせて、指の長さを比べてみた。すると・・・・どうだ、なんと、なんと私とほとんど変わらない。決して私はプロのギタリストとして指が長い方ではない。その私と変わらないのだ。これには驚かざるを得なかった。この指の長さで、どうしてあんなフレーズが弾けるのか・・・・なぜ、人差し指と小指が別物のよう動くのか。彼に言わせると、日本の相撲でいう股割りだと。つまり指の股割・・・・・もう人間業ではない。
四人目は、わが音楽の師匠、人間国宝山本邦山。先生には、様々な逸話があるが、私が目の当たりにしたのが、アルバムのレコーディングをしていた時。カーラ・ボノフの<Water is Wide>というもともと4拍子の曲を3拍子にアレンジして、展開することになった。勿論彼にとっては、見たことも聞いたこともない曲。初見中の初見である。初見が弾ける、吹けるこれは、プロにとっては当たり前のことかもしれない。しかし、私が驚嘆したのは、テイク・ワンで録音を始めたとき、まん前にいる私の目を見て演奏を始めた。そう、譜面ではなく、わたしのまなこだ。演奏前に一、二度目で追った譜面をそのまま再現している。すでに頭の中に譜面がコピーされている。信じられない出来事だった。
その時のテイク・ワンの録音は、そのままCDになって発売されている・・・・・・・・・・・・。アルバム・タイトルは「大吟醸」Bambooレーベル、2006年の発売である。
この4人は、天才と言うこともはばかられる異能である。職人技ということを超えた人類の宝である。
オーストラリアが生んだ異能SARAHはこの4人を超えているとは言わない。まだまだ未完の大器である。それだけに、この4人を超えてしまうかもしれないポテンシャリティーを感じる。彼女のバイオリンの音色は、大地からの鼓動を伝える。未来への可能性を感じるアーティストである。
クラシックの左脳、JAZZの右脳、いや、クラッシクの右脳、JAZZの左脳。これらのことをひっくるめてどこか未来のユートピアに連れてってくれるアーティストSARAH。
沈黙の次に美しい歌声と、大地からの鼓動を感じるバイオリンの音色。この両方を持つアーティスト、SARAH。
2011年は必ず彼女の年になる。
次回は、東大駒場祭りの様子を・・・・・・・・。
よいお年を。
♪ Sarah ライヴ情報
12/25(土)
開場:6時/開演:7時
@恵比寿 アートカフェ「フレンズ」
出演:Sarah Alainn + G2us
高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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