Vol.11 オスロの日々
text by Ayumi TANAKA

 近頃のオスロは少しずつ日が長くなり、春の訪れが近づいていることを感じさせてくれる。相変わらず辺りは雪景色だけれど、天気のいい日は、太陽が雪で覆われた地面を明るく照らして美しい。暗くて長く、去年は少し憂鬱に感じたオスロの冬も、2年目になると色々なものが見えるようになり、愛おしく思えるようになってきた。それに、ここに暮らしているとノルウェーの音楽が生まれた背景のようなものを感じられるのが嬉しい。

 先日、Mats Eilertsenトリオ [ノルウェーのMats Eilertsen(コントラバス)、Thomas Strønen(ドラム)、オランダのHarmen Fraanje(ピアノ)] のコンサートを観に行った。終わった後もいつまでも余韻に浸りたくなるような素敵なコンサートだった。静寂の中に深いエネルギーのようなものが流れていて、1時間半近くのコンサートの中にストーリーを感じた。演奏者とお客さんの間にもいい空気が流れていて、コンサートの後、友人と「いいコンサートだったね」と話しながら、とても幸せな気持ちになった。

 大学では、2月の初めにニューヨークから、 Art Lande(ピアノ)、Ralph Alessi (トランペット)、 Mark Helias(コントラバス)の3人のミュージシャンが先生としてやって来て、SIM(school for improvisational musicコースという ワークショップが1週間開かれた。このコースは即興演奏を中心に音楽を探求するもので、オスロとニューヨークで行われている。アメリカのミュージシャンの音楽や考えに触れられる機会はとてもいい経験になった。 

 また、普段の大学の授業では、前回も紹介したLisa Dillanの即興演奏の授業が楽しい。最近では"timbre"(音質)について考える授業をした。それぞれが自分の楽器で出すことのできる異なる音質を見つけてメモをして、それらの音質の違いだけを使ってソロやデュオで即興演奏をして、お互いの演奏を聴き合った。その後、それぞれがどんなコンセプトに基づいて演奏したのかを話して、それがどのように音楽に影響を与えたかをみんなで話し合った。例えばピアノは、鍵盤を使うか、弦やそれ以外を使うかを考えたり、もっと小さなことで言えば、鍵盤をどのように打鍵するか考えるだけで、いくつもの音質を見つけることができる。この授業には歌とサックス、ギター、ベース、ドラムの学生が参加していて、このように細部に焦点を当てて取り組むと、お互いの楽器のことをよりよく知る事ができる。他の学生と一緒に学ぶと私一人では思い付かないようなアイデアを見つけられ、みんなそれぞれが個性的でユニークでとてもいい刺激になる。今度、この授業でエマヌエルヴィーゲラン美術館という洞窟のような空間(音の残響が長く残る特別な空間で、Arve Henriksenなど多くの音楽家がレコーディングを行っている。オスロを訪れる方に是非おすすめしたい場所)で小さなコンサートをする計画を立てていて、そこでどんなことが起きるのかとても楽しみだ。
(2月10日寄稿)


田中鮎美:
3歳から高校卒業までエレクトーンを学ぶ。エレクトーンコンクール優勝、海外でのコンサートなどに出演し世界各国の人々と音楽を通じて交流できる喜びを体感する。
その後、ピアノに転向。ジャズや即興音楽を学ぶうちに北欧の音楽に強く興味を持つようになり、2011年8月よりノルウェーのオスロにあるノルウェー国立音楽大学(Norwegian Academy of Music)のjazz improvisation科にて学ぶ。Misha Alperinに師事し、彼の深い音楽性に大きな影響を受ける。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.