# 1002
『竹内直/セラフィナイト・ライブ・アット・モーション・ブルー・ヨコハマ』
text by 望月由美
1曲目<Seraphinite>冒頭のテナーのカデンツアで決まりである。硬質な竹内直(ts)の音の魅力が凝縮されて迫ってくる。硬く引き締まった音に加えてざわめくようなサブトーンが豪快さを倍加する。
竹内直の新作『セラフィナイト・ライブ・アット・モーション・ブルー・ヨコハマ』(What's New)はレギュラー・カルテットによる横浜「モーション・ブルー」でのライヴ録音である。
普段のライヴではテナーのほかにバス・クラ、フルートと多くの管楽器を操り、前作『オブシディアン』(What's New)ではバス・クラだけで録音している竹内直であるが本作ではテナー1本で吹き切っている。
以前、<私の楽器はテナーです、他の楽器はあくまでもテナーの表現を補うものです>と語ってくれたことがあったが、ここにはテナー・マン、竹内直の実像が納められている。まさにザ・マン、竹内直の面目躍如といった演奏が展開されている。
音楽的な探究心が旺盛な竹内直はこのレギュラー・カルテットと併行して市野元彦(g)、田中徳崇(ds)との「MANI」、太田朱美(fl)、土井徳広(cl)との「木管三重奏」、ンジャイ・ローズ3兄弟(per)との「サバール・ジャズ」等を組織している。そしてリーダー以外でも林栄一との「循環兄弟」や日本版ワールド・サキソフォン・カルテット「サキソフォビア」、マイク・レズニコフの「Mike's Jazz Quartet」にもレギュラーで参加しているしそのほか沢山のセッションに顔を連ねている。
このような様々なグループで勢力的に活動している竹内直であるが、やはりその根っこはワン・ホーンの竹内直4である。ファースト・アルバム『ライブ・アット・バッシュ』('96年 CAB RECORDS) 以来メンバーの変遷はあるもののワン・ホーン・カルテットは17年続いている竹内直のルーツである。片倉真由子(p)が加わって2年余、ユニットが結束を高めつつある中での好タイミングでの録音で、メンバーのそれぞれの個性が緊密に結びつき有機的に作用してユニットとしての一体感のある演奏が記録されている。
新規加入の片倉真由子のピアノは端正で温かみがあり高みに達した竹内直の激情を一瞬クールダウンし、さりげなく自分の世界にシフトしてゆく。このあたり、片倉真由子はワン・ホーン・カルテットでのピアノの役割を熟知した上で自らの個性を如何なく発揮していて、グループのさらなる飛翔への触媒となっている。 (2)<Luiza>の冒頭のピアノ・ソロはとりわけ美しい。また、ここでの竹内直のテナーはジョビンの名曲をこよなく優しく謳いあげる。さらに江藤良人(ds)のブラシが軽快でいておなかにズシリとくる、ヘヴィーだ。洒落たブラシつかいは沢山いるがこれだけ重いブラシはまさにエルヴィン直系といえる。 (4)<I've never been in love before>でピアノの片倉真由子が途中で手を休め、(ts)、(b)、(ds)のピアノ・レス・トリオになるや江藤のブラシはますます饒舌になり、井上陽介(b)の安定したベース・ラインに乗ってテナーとブラシが会話を始める。そして竹内直が高揚し始めるや否や江藤はスティックに持ち替えシンバルを打ち鳴らし竹内直と熱い対話を繰り広げる。ライヴならではの熱いシーンである。直と江藤、二人の結びつきの深さが音から浮かび上がってくる。
(1)<Seraphinite>と(3)<Amber>2曲が竹内直のオリジナル。竹内直らしい曲想、唄い方がすでにワン・アンド・オンリー、独特の境地に入っていることを改めて知らせてくれる。(4)<I've never been in love before>のようなミュージカル・ナンバーも直 節に咀嚼して自分の曲のように自然に唄っている。(5)<Como siento yo>では井上陽介がスローなテンポの中を速いパッセージで弓を操る。このアルコでのスピード感がバラードにスリルをもたらしている。
極めつきが (6)<Kokiriko>。このグループのエンディング・テーマ的な曲でしばしば演奏されているがこの夜の演奏はまた格別。多くの人が耳になじんでいる富山の民謡を決して古い郷愁におちいらずジャズの歌心でおおらかに唄う。初めゆるやかなテンポでテーマを紡ぎ出したカルテットは徐々に加速し遂にはその夜一番のスリリングな場面を生み出す。灼熱の鋳鉄のように熱く燃える竹内直、その熱気を冷ますかのように爽やかにスイングする片倉真由子、ここぞとばかりにシンバルを連打し煽り立てる江藤良人、出過ぎず、かといって引っ込まずウエル・バランスでしっかりとリズムをキープする井上陽介。この4人の凄まじいばかりの高揚感はかつてコルトレーンの黄金のカルテット『A Love Supreme』(impulse!) と、同じ次元に到達したかのように聴こえる。コルトレーン・カルテットは"ア・ラヴ・サプリーム"と唱え、竹内直カルテットは"まどのサンサもデデレコデン、はれのサンサもデデレコデン"と歌う。
竹内直はカルテットの選曲も構成もすべて自分で行うと聞いているが、ひとたびステージに立てば、そこは音を出し合うメンバーとの共同作業になるのだという。そうした竹内直の現場主義が最も自然な形で作品化されたのが『セラフィナイト・ライブ・アット・モーション・ブルー・ヨコハマ』(WNCJ-2244)である。 (2013年6月 望月由美)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.