#  1011

『Robblerobble/Robblerobble 1』
text by 剛田 武


Drollehålå DH9604

1. Part I
2. Part II
3. Part III
4. Part IV
5. Part V
6. Part VI

John Lilja: double bass
Petter Frost Fadnes: alto and baritone saxophone
Dominique Brackeva: trombone
Vidar K. Schanche: electric guitar
Stale Birkeland: drums

Produced by John Lilja
Recorded live at Tou Loft, Stavanger Norway 24 April 2010 by Steven Grant Bishop and John Lilja
Live sound: Steven Grant Bishop
Mixed by Margaret Luthar
Mastered by Thor Legvold, Sonovo

9月に初来日ツアーを控えたノルウェーRobblerobbleの初アルバム

ノルウェー第4の都市スタヴァンゲルは、“ノルウェー最大の《スモール・タウン》”と呼ばれ、海岸沿いの美しい街並みと、住民の温かい人柄と、港町ならではのコスモポリタンな雰囲気が特徴。長年にわたりノルウェーで最も即興音楽家を輩出している都市でもある。この街にキッチン・オーケストラという一風変わった楽団が存在する。ジャズ・アーティストから交響楽団のメンバーまで幅広いフィールドで活躍する20数人のプロ演奏家の集合体で、リーダー不在の回転体という形態のユニークなオーケストラである。アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ、エヴァン・パーカー、キース・ティペットなどヨーロッパ即興界の重鎮と共演を重ねてきた。
そのメンバー10人が昨年5月に初来日し、六本木スーパーデラックスで5日間日替わりで日本のミュージシャンと共演を繰り広げた。筆者が観たのは公演初日5月15日スーパーデラックスのレギュラーイベント「Test Tone」での、鈴木學 (electronics)、広瀬淳二 (sax)、高岡大祐 (tuba)、Kelly Churko (guitar)、鈴木郁 (drums)との初顔合わせのセッション。日本側もノルウェー側もお互いの手の内が全く分からない状態での共演だった。それぞれ個性的な日本人演奏家に対して、まったく臆することなく、ヨーロッパらしいユーモアを交えての演奏に、30年前のミシャ・メンゲルベルク&ICPオーケストラの初来日公演を思い出した。

中心メンバーであるJohn Liljaは1970年ニューヨーク生まれのベーシスト/作曲家。バークリー音楽院で作曲を学んだ後、1997年にノルウェーに移り、Frode GjerstadやArve Henriksenなど地元のミュージシャンやエヴェン・パーカー、マリリン・クリスペル、ポール・ニルセン・ラヴなどヨーロッパを代表する即興演奏家と共演するとともに、作曲家としてノルウェー国営放送やオランダ・メトロポリタン・オーケストラ等に作品を提供している。
Johnがキッチン・オーケストラにも参加する演奏家たちと2010年に結成したクインテットがRobblerobble。ユニークなバンド名はマクドナルドのキャラクターのキャッチコピーに由来するらしい。その音楽性は公式バイオに「チャールズ・ミンガスがジョン・ゾーンのネイキッド・シティのソリストとブラック・サバスのリズム隊からなるユニットの為に作曲したようなサード・ストリーム・ストーナー・ロック」と表現され、ノルウェーのプレスではアート・アンサンブル・オブ・シカゴやデューク・エリントンを引き合いに評価されたという。
デビュー・アルバム『Robblerobble 1』はバイオに記された通りの雑多な音楽性が同居している。冒頭の不穏なフォルテが無音に近い静寂に転じ、ごそごそいう物音ノイズから、ハード・ロック風8ビートに乗せたドローン演奏M2に突入。テリエ・リピダルやフレッド・フリスを思わせる非イディオマティックなフレーズを繰り出すギター・ソロは、プログレ/チェンバー・ロック・ファンにもアピールしそう。再び一転してアトモスフェリックなM3ではトロンボーンが情感豊かなソロを披露、同郷の作曲家グリークに通じる叙情的な世界を描き出す。そのままの雰囲気でウッドベース・ソロM4が始まる。確かなテクニックに裏付けられた調性のあるインプロはバール・フィリップス譲りか。後半のホーンとギターの絡みにはフランク・ザッパ的ユーモア感覚がある。入れ替わりでアルト・サックス・ソロM5に場面チェンジ。徐々に調性から逸脱していくフリーキーな演奏は、ドラムの細かいストロークと呼応してアルバム終盤のクライマックスへ上り詰める。最後のM6は、再び初めの静寂演奏に帰結し、いつまでも続く余韻を愛おしむように消えていく。6つのトラックが異なる場面を描く音楽劇のような作品である。
フィヨルドの静謐さからムーミンのメルヘンまで兼ね備えた豊饒な音楽性には、北欧のローカル都市で人知れずじっくりと育まれたユニークな才能の閃きが満ち溢れている。
既にセカンド・アルバムが完成し今秋リリース予定。9月の初来日ツアーでどのような演奏が繰り広げられるのか、楽しみでならない。(2013年7月12日記:剛田武)

*来日情報は「国内ニュース」欄を参照下さい。(編集部)

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.