# 1012
『小曽根 真&ゲイリー・バートン/タイム・スレッド』
text by 稲岡邦弥
ユニバーサル・ミュージック UCCJ-2112 ¥3,059(税込) |
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小曽根 真(p)
ゲイリー・バートン(vib)
1. ファット・キャット
2. ストンピン・アット・B.P.C.
3. リーズ・パーティー
4. ソル・アステカ
5. イタルパーク
6. ハーツ・イン・ランゲンハーゲン
7. ポップコーン・イクスプロージョン
8. タイム・スレッド (for ビル・エヴァンス)
9. 組曲≪ワン・ロング・デイ・イン・フランス≫ Part I “リヨンの朝~アイ・ヒア・ア・トラブル”
10. 組曲≪ワン・ロング・デイ・イン・フランス≫ Part II “コルドン・ブルー”
11. 組曲≪ワン・ロング・デイ・イン・フランス≫ Part III “2台の可愛いフレンチ・カー〜ザ・コンサート”
12. アイ・ヒア・ア・ラプソディ(Encore Track)
録音:ジョー・ファーラ@アヴァター・スタジオ、NYC、2013年3月21〜23日
プロデューサー:小曽根 真
小曽根 真にとってゲイリー・バートンが師から盟友へと変わった瞬間
映画でいえばロードムービーの趣。小曽根 真(1961~) がかつては師と仰ぎ、今や盟友となったゲイリー・バートン(1943~)との30年にわたるキャリアのハイライトを音で綴った音楽紀行である。
M1の<ファット・キャット>は文字通り“太っちょの猫”、転じて“大金持ち”のスラングもあるらしい。ゲイリーの所有するヨットでのボストン・ハーバーのセーリングの思い出。セールを上げて風を受けたヨットが快適に滑走する様をゲイリーのヴィブラフォンが軽やかに描き出す。小曽根のピアノがどこかファンキーさを醸し出しているのはメタボ猫のイメージに拠っているのだろうか。
M2の<ストンピング・アット・BPC>は、スイング時代のヒット曲<ストンピング・アット・ザ・サヴォイ>をもじったネーミングだが心躍る快演。1983年、小曽根がゲイリーと邂逅したボストン・パフォーミング・センター(BPC)での思い出。小曽根はテクニックに走り過ぎる演奏をバークリー音大教授のゲイリーにたしなめられる。若気の至りというべきか当時の小曽根は超絶技巧で聴衆の度肝を抜く演奏を得意としていたのだ。事実、デビュー後ある期間の小曽根の演奏に対しては「テクが鼻につく」という日本での評価が一般的だった。カーネギーホールでのリサイタルを聴いたクインシー・ジョーンズの推挙で米CBSからソロ・アルバム『OZONE』をリリース、という快挙を認めた上にもかかわらずだ。その後レッスンを受けたゲイリーから聴かされたビル・エヴァンスの<タイム・リメンバード>に強い衝撃を受け、そのインスピレーションが30年の発酵期間を経て結実したのがアルバム・タイトルにもなっているM8<タイム・スレッド>である。素晴らしいバラード。小曽根の心の深奥から滲みでた混じりけのなさとほのかなロマンチシズムが同居し、なおかつ格調の高ささえ感じられる。アルバムの白眉で、ゲイリーとの関係が師弟から盟友に変わった瞬間、と言ってもいいだろう。
小曽根 真がゲイリー・バートンのカルテットの一員としてECMデビューを果たしたのは、1984年録音の『Real Life Hits』(ECM1293)で、米CBSからのデビュー(ゲイリーがヴァイブとプロデューサーを兼務)と前後している。翌々年の1986年、ゲイリーはもう一度小曽根を起用して『Whiz Kids』(ECM1329)を制作する。サックスのトミー・スミスが加わったクインテット。“whiz kids”、文字通り“神童”。あれから30年。“神童”は見事に成長、小曽根はジャズとクラシックを股にかけ内外で活躍するトップ・アーティストに、トミー・スミスはマイケル・ブレッカーの跡を継ぐのはこの男?と思わせる演奏を数年前の東京JAZZで聴かせた。
ゲイリーと小曽根のデュオはこれが3作目になるが、“ゲイリー・バートン&小曽根 真”による『フェイス・トゥ・フェイス』(1995)と『ヴァーチュオシ』(2003)を経て、“小曽根 真&ゲイリー・バートン”による『タイム・スレッド』に変わった。18才の年の差を超えて“師弟”から“盟友”へ、小曽根の自信のほどが窺えるが、キャッチ・コピーに偽りがない両者の拮抗が快い刺激を生む快作である。(稲岡邦弥)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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