# 1015
『クインシー・ジョーンズ/ソウル・ボサ・ノストラ』
text by 稲岡邦弥
INTERSCOPE/ユニバーサル・ミュージック UICY-15229 \2,600(税込) |
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1. アイアンサイド (feat.タリブ・クウェリ)
2. ストロベリー・レター23 (feat.エイコン)
3. ソウル・ボサ・ノストラ (feat.リュダクリス、ナチュラリー7&ルディ・カレンス)
4. ギヴ・ミー・ザ・ナイト (feat.ジェイミー・フォックス)
5. トゥモロー (feat.ジョン・レジェンド)
6. ユー・プット・ア・ムーヴ・オン・マイ・ハート (feat.ジェニファー・ハドソン)
7. ゲット・ザ・ファンク・アウト・オブ・マイ・フェイス (feat.スヌープ・ドッグ)
8. シークレット・ガーデン (feat.アッシャー、ロビン・シック、タイリース・ギブソン、LLクールJ、テヴィン・キャンベル&バリー・ホワイト)
9. ベッチャ・ウドゥント・ハート・ミー (feat.メアリー・J.ブライジ、Qティップ&アルフレッド・ロドリゲス)
10. エヴリシング・マスト・チェンジ (feat.ビービー・ワイナンズ)
11. メニー・レインズ・アゴー(オルワ) (feat.ワイクリフ・ジョン)
12. P.Y.T. (feat.T-ペイン&ロビン・シック)
13. イッツ・マイ・パーティー (feat.エイミー・ワインハウス)
14. ヒッキー・ブルル (feat.スリー・6・マフィア&デヴィッド・バナー)
15. サンフォード・アンド・サン (feat.T.I.、B.o.B.、プリンス・チャールズ&モホンビ)
御大クインシーに捧げるアーバン・ヒップホップ・ヴァージョンのヒット・ナンバー集
懐かしや...<アイアンサイド>。1969年から6年間TBSで放映された刑事ドラマ『鬼警部アイアンサイド』のテーマ。入れ替わりに1975年から9年間日本テレビのB級事件を集めたワイドショー『TV三面記事 ウィークエンダー』のテーマとして2度目のお務めを果たした。都合15年間、毎週TVから流れ、いまだに猟奇的な事件のレポートのアタマには必ずと言っていいほど、このメロディが流れる。しかし、このアルバムではアーバンなヒップ・ホップに姿を変えており、かつての“事件性”は影を潜めている。先入観なしに聴く若いリスナーはキャッチーでカッコイイ曲としてすんなり受け入れるだろう。そう、“キャッチー”と“カッコイイ”(ヒップ)がこのアルバムを通じたキーワードだ。クインシーが手掛けたアルバムがいつもそうであるように。アルバム・タイトルにもなっている<ソウル・ボサ・ノストラ>。オリジナルは1962年のクインシーのヒット・アルバム『ビッグ・バンド・ソウル・ボサ・ノヴァ』収録。これもTV-CMで使われているから耳にしたファンも多いことだろう。ジャズ・ファンの間では“あの”ローランド・カークがフルートを吹いていたことが話題になった。ジョージ・ベンソンのヒット・アルバム『ギヴ・ミー・ザ・ナイト』(1980)のタイトル曲M4。これまたヒップ・ホップ・ヴァージョン…。クインシーの新作と思い聴き進んでいくと、エイミー・ワインハウスの<イッツ・マイ・パーティ>が登場する。クインシーが1963年にプロデュースし大ヒットしたレスリー・ゴアのデビュー曲だ。エイミーはたしか2年前に急性アルコール中毒での事故死が世界的な話題になった。ネットにあたってみると、何とこのテイクはエイミーの最後の録音とある。ワインハウスといえば、トニー・ベネットのグラミー受賞アルバム『デュエッツll』の<ボディ・アンド・ソウル>が最後の録音として話題になったことが記憶に新しい。いずれにしても、このアルバムがアメリカでリリースされたのは2010年11月、今月末、生誕80周年を祝う来日公演を記念しての初めての国内盤のリリースということである。
クインシーは1933年3月シカゴの生まれ。1994年刊行の「New Grove Dictionary of Jazz」を見ると、クインシーの職掌として、まずarrangerを挙げ、続けて composer、bandleader、trumpeter そして最後に pianistが来ている。最新の wikiではこれに、producer、conductor、actorが加わる。14才でトランペットを習い始め、4年後にはライオネル・ハンプトンのバンドのメンバーになり、すぐにフリーランスのアレンジャーとして活躍し始めたという驚異の音楽早熟児。ジャズ・ファンとしては『ウォーキング・イン・スペース』(1969/A&M)などが気になるが、一般的には、アレンジャーやプロデューサー、業界人としてはA&Rや経営者としての活躍が評価の対象になるだろう。ピークは、アルバムの世界記録を達成したマイケル・ジャクソンの『スリラー』(1982)。個人的には、『スリラー』とともに、“USA for Africa”の<We Are the World>が忘れがたい。メイキング・ビデオを家族で繰り返し観た。録音中ネックレスでノイズを出したシンディ・ローパーにクレームを付けるクインシーに、「怒るなよ、クインシー...」と諌めるレイ・チャールス。クインシーとレイは子供の頃からの親友で、アルバムをプロデュースしている間柄。独特のフレージングで一節をこなしたボブ・ディランだが集合写真では“僕、知らん”とそっぽを向く。観るたびにディテールに入り込み飽きることがなかった。
さて、このアルバム、クインシーゆかりの曲をヒット曲を交えながらアーバン風味のヒップ・ホップを中心にブラック・コンテンポラリー(死語とはいえ他に適切な表現を知らない)で仕上げた1枚。クインシーはエグゼクティヴ・プロデューサーとして参加するに留まり(とはいえ、Q様の冠をいただくだけありクインシーの威光が隅々まで行き届いている)、むしろクインシーを慕うミュージシャンたちから献呈された作品といえるだろう。来日記念盤として<愛のコリーダ>から始まる2枚組『クインシー・ジョーンズ/Q80〜グレイテスト・ヒッツ』もリリースされているが、<アイアンサイド>や<ソウル・ボサ・ノヴァ>のオリジナル・ヴァージョンが収録されており、『ノストラ』に比べさすがにややもたるがジャズ・ファンはこちらの方に居心地の良さを感じるかも知れない。(稲岡邦弥)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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