ステージ上のギラが目の前に迫ってくるような溢れる楽しさ

　今年の４月、矢幅歩(vo)とのツイン・ヴォーカルで『ブリージング…』（Jump World）をリリースしたばかりのギラ・ジルカの新作である。 　これまでジャズの名曲やスタンダード、R＆B、ボサノヴァなど様々な音楽をその曲が持っている色合いを大事にしながらも個性的な解釈を施して大胆に自分の歌唱を主張してきたギラ・ジルカだが新作『デイ ドリーミング』(Jump World）ではいつにも増してソウル色を濃厚に打ち出している。ギラは以前ゴスペル・クワイアを率いてニューヨークのアポロシアターに出演したことがあると聞いているが、そうしたギラの本来もっている本質的な色合いが今回はっきりと打ち出されている。　本作でギラがとりあげた曲はコール・ポーターやJ・ヴァン・ヒューゼンのスタンダードからアレサ・フランクリンやロバータ・フラックのヒット曲までとジャンルを問わず幅広い選曲がなされている。グレン・ミラーの(10)＜ムーンライト・セレナーデ＞など意外性もあり選曲面で可愛いおもちゃ箱をひっくりかえしたような天真爛漫さがある。しかし、そのなかにギラの自作曲が３曲しっかりと組み込まれていて、古今の名曲の中にちりばめられたこれら３曲のオリジナルが陽気であたたかいギラの個性を一層くっきりと浮かび上がらせている。
　共演しているミュージシャンは今をときめくトップ・アーティストが12名参加しているが、基本は竹中俊二(ギター他)を軸にキーボード、ベース、ドラムという4人の編成で、曲によって岡部洋一のパーカッションが加わる。キーボードとベース、ドラムは曲によって人選が異なり、ゲストとしてTOKU(flh)と矢幅歩(vo)が何曲かに加わるという多彩な編成。
　ライヴ・ステージでは明るく、ハッピーで温かいハートを持ち、いつも自分のスピリットを唄に込めるギラの姿勢がダイレクトに伝わってくるが、本作でもそうしたギラの原点というべきものが全面に打ち出されていてスタジオ録音ながらステージ上のギラが目の前に迫ってくるような楽しさに溢れている。
　アルバム・タイトルの(4)＜デイ・ドリーミング＞はアレサ・フランクリン(ｖｏ)のヒット曲。ギラはバックコーラスも自分で唄いソロに重ねているが、このギラのコーラスがカラフルで心地よい。これまでにも何度か試みている手法でもあるが、ギラの独壇場である。またシナトラのイメージが定着している(3)＜カム・フライ ウイズ・ミー＞では意表をついてＴＯＫＵのフリューゲルホーンがリードする。チェットをソウルフルにしたようなＴＯＫＵのオブリガードが軽妙で洒落ている。ＴＯＫＵはロバータ・フラックのあたり曲(6)＜愛は面影の中に＞にも加わっているがいずれもフリューゲルホーンでの参加でアルバムに彩をそえている、実に効果的だ。(5)＜マイ・ファニー・ヴァレンタイン＞もポップなアレンジで意表をつく。チェットのセンチなヴァレンタインとはひと味違ったソウル・ヴァレンタインといったおもむきが面白いし、ガーシュインの(7)＜サマータイム＞もソウル・サマー仕上げといった按配。
　(10)＜ムーンライト・セレナーデ＞はギラと矢幅によるツイン・ヴォーカルでの演奏。二人のヴォーカリーズはいつ聴いても楽しく、スイートなグレン・ミラーがコンテンポラリーなファンクに変身する。 　サッチモの歌で一世を風靡した(11)＜この素晴らしき世界＞では中村健吾のベースに支えられてギラが豊かで伸びのある声で熱唱する。
　ギラの歌声には華があり、巧みなエロキューションで歯切れがよく1曲1曲がそれぞれ完結しているので1曲だけを切り出して聴いても楽しめるし、12曲がテンポよくつながっているので一幕物を見ているように全体を通して楽しむこともでき、ネット・オーディオ時代に即した仕上がりになっている。
　なお、ギラは本作の発売を記念して8月15日に「渋谷ＪＺブラット」で『デイ ドリーミング』リリース＆バースデイ・ライヴを行い、10月26日(土)の昼下がりには「阿佐谷ジャズストリート」にも矢幅歩(vo)馬場孝喜(g)中村健吾(b)との出演が予定されている。　（2013年7月 望月由美）

＊ 関連リンク：
http://www.jazztokyo.com/five/five1005.html