# 1018
『Racha Fora(ハシャ・フォーラ)』
text by 稲岡邦弥
Concept Inc 1131 | ![]() |
Hiroaki Honshuku(fl,EWI/本宿宏明)
Rika Ikeda(vln/池田里花)
Mauricio Andrade(モーリシオ・アンドラージ/g)
Rafael Russi(ハファエル・フッシ/el-b)
Fernando Saci(フェルナンド・サシ/pandeiro)
1.True Pot
2.Post Noodle
3.Sakura, Sakura(さくらさくら)
4.Di Menor
5.Garota de Ipanema(イパネマの娘)
6.Ice Butt
7.Sus Div
8.PONTO(先斗)
9.Chorozinha
10.O.o.M.
11.Rind Well
録音:本宿宏明+ダグ・ハマー@Dream Works Productions Studio, Lynn, MA, 2011.5.21
ミックス:本宿宏明
マスタリング:バリー・ウッド@The Other Room, Capistrano Beach, CA,2011.6.29
プロデューサー:Racha Fora
ブラジリアンのグルーヴに乗った魅力たっぷりのジャジーなインプロヴィゼーション
ベース・ギターのリードにパーカッションが加わり、柔らかいギターの爪弾きに乗ってフルートがトリルから雄叫びを上げ、ヴァイオリンがSE的なフィルを入れる思わせぶりなイントロで思わずゾクゾクしてくる。未知の世界へ誘い込まれるようなあの感覚だ。フルートとヴァイオリンのユニゾンによるテーマからバンデイロによるバイヨンのリズムを得てフルートの伸びやかなソロがヴァイオリンからギターに受け継がれる。突き上げるようなブラジリアン独特のリズムに乗って展開されるジャジーなインプロヴィゼーション。3人のブラジリアンとふたりの日本人、「ハシャ・フォーラ」が身上とする“ハイブリッド・ミュージック”のエッセンスが詰め込まれた見事なプレゼンテーションだ。身体は自然に揺れている。
サンバ+(ウェスト・コースト)ジャズ=ボサノヴァ、が公式だが、「ハシャ・フォーラ」はインプロヴィゼーションを支えるグルーヴにブラジルのさまざまなネイティヴなリズムを援用する。ボサノヴァを象徴する名曲<イパネマの娘>に使われたリズムはアフォシェで、バイーア地方に伝わるカンドンブレ(民間信仰の儀式)で使われる緩やかなアフロ・ブラジリアン・リズム。ここで本宿が演奏するのはEWI(イーウィ)という名で知られるAKAIのウインド・シンセ。手製の尺八のようなひなびたサウンドでわれわれをリオからバイーアの田舎町に連れ出す。2曲目の<ポスト・ヌードル>はサンバの一種でパルティート・アルト、サンバ系は他にミディアム・テンポの<ジメノア>、EWIが大暴れしベースが跳ね回るアップ・テンポのファンク・サンバの<O.o.M>など。
本宿氏の解説によると、さらに、ブルージーなEWIをフィーチャーした<PONTO>のシャチ、<ショロジンヤ>のショーロ、急速調のクローザー、バンデイロの秘技を堪能できる<リンド・ウェル>のフレーボなどのリズムが使われているが、さすがリズムの宝庫ブラジルである。“ブラジリアンのグルーヴに乗ってジャジーなインプロヴィゼーション”の触れ込み通り、新鮮なブラジルとジャズの“ハイブリッド・ミュージック”を存分に楽しむことができる。3人のブラジリアン、とくにギターのモーリシオとベースのハファエルはリズムを離れて随所で素晴らしいソロを聴かせ、本宿と池田に肉迫する。
スローなバイヨンで演奏される3曲目の<さくらさくら>。レコーディングの直前に発生した東日本大震災の被災者チャリティのために急遽追加された曲目で、ヴァイオリン、フルート、ギターのソロはどれも被災者の心情に寄り添う演奏で強く印象に残ったが、なかでも池田のヴァイオリンのソロが心の真底にまで響く感動的な内容だった。
リーダーの本宿は、バークリー音大とニューイングランド音楽院の両校で同時期に学んでおり、ニューイングランドでは「リディアン・クロマチック理論」のジョージ・ラッセルのアシスタントを務め、彼の「リヴィング・タイム・オーケストラ」にも招聘された逸材。このCDで演奏されている9曲にも彼の理論が援用されているというが、永年の付き合いでそれはすでに本宿の中で血肉化されているようだ。
今年9月には「ハシャ・フォーラ」の初来日が予定されている。“ハシャ・フォーラ!”(さあ、行くぞ!)のかけ声と共に始まる彼らの熱い演奏が日本の残暑をさらに暑いものにしてしまうかも知れない。(稲岡邦弥)
*来日スケジュール;
https://www.facebook.com/events/193441047485364/?fref=ts
*本宿宏明インタヴュー;
http://www.jazztokyo.com/interview/interview119.html
追悼特集
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
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#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
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#10 Contents
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シスコ・ブラッドリー
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