# 1020
『中村新史/アール・アール〜レベル・ライト』
text by 稲岡邦弥
Candeza/T-Toc Records CADE-0007 \2,800(税込) |
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中村新史 (p,org,accd,vocoder)
工藤 精 (db)
羽根渕道広 (ts)
宇山満隆 (ds)
西岡ヒデロー (perc, tp)
ナイス橋本 (MC)
ジェリー・ジャム・キッズ(voice&chorus)
1. Get Up and Stand Up
2. RR - Rebel Right -
3. Jujamba
4. Namihei
5. 音O-traveller
6. Kaleido Swing
7. Poly Funk
8. Golgo
9. Watoto Ndegeocello
10. All You Need Is Love
録音/ミックス/マスタリング:金野貴明@T-Toc Studio, 2013.1.7/8
ディレクター:角 俊介
プロデューサー:中村新史
エグゼクティヴ・プロデューサー:金野貴明
明るく前を向いて生きていこうとする中村のポジティヴな姿勢が頼もしい
ボブ・マーリーの代表的なメッセージ・ソング<ゲット・アップ・アンド・スタンド・アップ>(1973)。中村のパーカッシヴなピアノとヴォコーダー(これは気の効いたアイディアだと思う)のリフが執拗に繰り返される。目を覚ませ、立ち上がれ、われらの権利のために立ち上がれ...。裏で咆哮する羽根渕のテナーサックス。唯一メッセージ性を醸し出しているテナーだが奥に追いやられている。エンディングはレゲエらしく軽いダブでフェイド・アウト。
2曲目はタイトル・チューンの<R.R.レベル・ライト>。R.R.は世界の富を支配するロスチャイルドとロックフェラーのイニシャルだろう。レベル・ライトは抗う権利。R.R.を体制と見立て抵抗する姿勢を示す。演奏はランニング・ベースが快適なテナーとトランペットによる2管の4ビート・ジャズ。
中村新史(なかむら・しんじ/1974年生まれ)にとって、レベル・ライト=抵抗する権利とは、自分が自分らしく生きる権利。そして、子供が子供らしく生きる権利。彼が取り立ててそれを主張するには訳がある。クラシックからジャズに転じ鍵盤奏者としてそれなりに音楽シーンで活躍していた中村は2008年、突然、原因不明の「自己免疫性脳脊髄炎」に倒れ、意識不明状態に陥ったまま2ヶ月後奇跡的に意識を取り戻した経験を持つ。車椅子のピアニストとしてカムバックするまでにはさまざまな有形無形の抵抗があり、それとの闘いを経ての復活なのだ。その間、マスメディアで報道される子供たちを蔑(ないがし)ろにする世間の有り体を見て「子供が子供らしく生きる権利」にも目覚めたのだ。
<ワトト・ンドゲロケロ>。スワヒリ語で“子供よ、鳥のように自由に”の意。ジェリー・ジャム・キッズのコーラスによるリフにボンゴがかぶり、テナーとピアノが子供たちのリフを継ぐ。ミディアム・テンポの心地よいジャズ。裏ではしゃぐ子供たちの声。続く、レノン=マッカトニーの<オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ>。エンディングのクール・ダウンに相応しいミディアム・スローのバラード。ヴォコーダーの男声と子供たちのコーラスの掛け合いが、大人と子供の平和な共生(こういうことを敢えて主張せざるを得ないほど、今の子供たちの置かれている状況は尋常ではないということだろう)を暗示しつつフェイド・アウト。オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ、愛がすべて。“さまざまな矛盾、不条理、虚構。だが、わずかでもそこに「愛」があれば、かすかな希望が生まれる”と、中村は結ぶ。
なかで演奏される曲はどれも中村のオリジナル(ラップの<音O-トラヴェラー>のみ、MCのナイス橋本との共作)。さまざまジャンルで活躍してきた中村だけあり、それぞれが変化に富んだ表情を持つ。しかし、すべての演奏に共通するのは、中村のアーシーでパーカッシヴなピアノが醸し出す地に足の着いた明るく前を向いて生きていこうとする中村のポジティヴな姿勢だ。現在ではリハビリが進み、車椅子に装具(歩行用装具を改造したもの)を履いて
自分の脚力のみでペダルを踏んでいるとのこと。目を見張る回復力である。
車椅子を必要としたパーカッショニストに世界が認める富樫雅彦(1940.3.22- 2007.8.22)がいた。ロックの世界ではドラムとヴォーカル(最近ではキーボードも操っているが)のロバート・ワイアット(ソフト・マシーン/1945.1.28〜)がいる。ペダル・アシストを使っていたのは先天性骨形成不全症で身長が1mそこそこだったミシェル・ペトルチアーニ(1962.12.28- 1999.1.6)。37才で早世したが、“フランス・ジャズ界最高のピアニスト”と謳われた。何度か来日し日本のジャズ・ファンにも大いに愛された。中村にとって心強い先人たちである。
中村新史のさらなる活躍を期待するとともに、中村の主張する「子供たちが子供らしく生きられる」環境を創り出すためにわれわれも自ら手を下そう!(稲岡邦弥)
追悼特集
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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