# 1022
『マーラー:交響曲第2番「復活」/エリアフ・インバル指揮東京都交響楽団』
text by 藤原聡
インバル&都響の新マーラー・ツィクルスから、2012年9月の『復活』。同じエクストンより2010年6月の同曲ライヴがすでに発売されているが、わずか2年3ヶ月後の録音が発売されるのも異例だろう。それだけインバル&都響の人気と評価が高いことの表れだが、前回録音−さらには1985年のフランクフルト放送響盤(DENON)−との共通点・相違点は何か?
共通点としては、インバルの基本姿勢としての「音符自体に語らしめる」という点、ここにはまったくブレがない。つまり、あえて言えば非・音楽的な情念であるとか過剰な思い入れを排除し、スコアに記譜された音符の「差異」を徹底的に際立たせるのである。この点ではやはりインバルがおおいにトンがっていた1985年のフランクフルト盤がいちばん徹底されていて、アクセントやクレッシェンド・デクレッシェンド、各パートのダイナミクスのコントラストをありのままに表出する(インバルに比べれば、多くの指揮者は多かれ少なかれ「角が取れて」しまっている)。しかし当盤でも、やはりこの点ではインバル独特のこだわりが随所に聴いて取れる(とくに第1、第3楽章)。
では相違点はどこか? それは、神経症的にディテールの差異を際立たせる前述の傾向よりも、全体の大きな流れを重視し、より包括的に楽曲を捉えるようになった点であろう。分裂的な印象が際立っていたところから−これがインバルのマーラーの「現代性」と喧伝されていた−より大きなスケールで全体を構築する姿勢へ。さらに言えば、感情表出が前面に出るようになっている。これは年月を経たことによるインバルの内的変化であり、聴き手それぞれの捉え方によって評価はさまざまな様相を呈するだろう。
順番が前後してしまったが、当盤と2010年都響盤との比較では演奏時間はほとんど同じながら聴いた印象は相当異なる。これはおもに部分のテンポ設定のコントラストとパウゼの取り方、そして何よりも当盤が2010年盤にも増して全体を大きな流れで捉えている点にあると思う。インバルは依然変化しているのだ。
まとめれば、解剖学的に冷静な視線で細部を分析する手つきが際立つフランクフルト盤か、この点ではいささか丸くなったものの楽曲全体の構成という巨視的視線が際立ち圧倒的なクライマックスを築く都響盤か、というところだろう。それにしてもいつもながらエクストンの録音はじつに優秀。当然SACD層で聴くべし!(藤原 聡)
藤原聡(ふじわら・さとし)
元タワーレコード・クラシック担当スタッフ。2013年7月退社。
同社フリーペーパー「intoxicate」に定期的にレビューを執筆。
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