#  1025

『The Swallow Quintet ザ・スワロー・クインテット/イントゥ・ザ・ウッドワーク』
text by 小橋敦子


Xtra Watt 13/ECM

Steve Swallow スティーブ・スワロー (electric bass)
Carla Bley カーラ・ブレイ (hammond B3 organ)
Chris Cheek クリス・チーク (tenor sax)
Steve Cardenas スティーブ・カーディナス (guitar)
Jorge Rossyホルヘ・ロッシィ(drums)

1. サッド・オールド・キャンドル
2. イントゥ・ザ・ウッドワーク
3. フローム・フーム・イット・メイ・コンサーン
4. バック・イン・アクション
5. グリズリー・ビジネス
6. アンナチュラル・コーズィズ
7. ザ・ブルター・ディド・イット
8. スータブル・フォア・フレイミング
9. スモール・カンフォート
10. スティル・ゼア
11. ネバー・ノウ
12. エクジット・ステージ・レフト

録音:ジェラール・ドゥ・ハロ & ニコラ・バイラール @Studio La Buissonne, Pernes-les-Fontaines, FRANCE 2011年11月15-16日
プロデューサー:スティーブ・スワロー A WATT PRODUCTION / ECM RECORDS

スワロー一座のロマンとユーモアに富んだシアトリカル・パフォーマンス!
作・演出:スティーブ・スワロー 脚本:カーラ・ブレイ 出演:クリス・チーク、スティーブ・カーディナス、ホルヘ・ロッシ、カーラ・ブレイ、スティーブ・スワロー

・・・と、CDを聞きながら、中世のヨーロッパで旅回りの一座が額縁のようなもので囲まれた小さな簡易舞台で演じる即興演劇の光景を思い出した。おおよその筋書きははっきりしているものの、役者がその場で即興的に演じていく仮装舞台劇だ。民衆の中で上演されながら次第に洗練され、様々な地域の広い層から受け入れられていったというが、俳優集団、そしてパーフォーミング・アーツの原型とも言われている。登場人物はそれぞれに際立った個性・特徴を持ち、生活に根ざした「生きたセリフ」はわかり易く、演技の楽しさとその風刺の効いたユーモアで観客を惹きつける。そして一座の強い連帯感!

スワロー・クインテットの5人もそれぞれが強い個性を放つ。演奏される曲は全てスワローの作品だが、スワローはメンバーの一人ひとりを頭に描きながら曲を作ったという。なるほど各楽器によるロールプレイが絶妙だ。役者の持ち味を100パーセント引き出す座長の作、演出と言ったところだろう。小編成バンドでありながら、その時々で多様な色彩と表情を放つサウンドは万華鏡を覘いたときのような驚きだ。ビッグバンドを感じさせるパワフルさあり、クラシックの室内楽のような繊細さあり、またある時はパリの街角から聞こえるストリートオルガンを連想させる響き・・・とバラエティーに富んでいる。「これもカーラ・ブレイの粋なヒラメキがあってのこと。僕は本質的には細密画家的で、カーラは音楽を大きく捉えるタイプ。全体の流れを作りだすのが上手いんだ」と座長は語る。しかもこのクインテット、ベース、ギター、ハモンドオルガンと電気楽器を多用しながらもフュージョンとは一線を画し、ジャズ・フィーリング溢れるメロディー、リズム、サウンドが親しみ易く自然で心地よい。カーラ・ブレイのユーモラスで表情豊かなハモンドオルガンの音色がさらに一味添え、「ピアノじゃなくてカーラのハモンドオルガンが聞きたい!」と切望したというスワローの心中が窺える。

1曲目の<サッド・オールド・キャンドル>は、半音階のスケールが不安気に上・下降しながらロウソクの炎の柔らかく揺れる様を連想させるアンティークな響き。続く<イントゥ・ザ・ウッドワーク>では一気に闇から抜け出したような明るさとスピード感が印象的だ。4曲目の<バック・イン・アクション>はドラムのホルヘ・ロッシをフューチャーしたもので、バップ・フィーリングたっぷりの曲。おどけたような旋律と小気味良いリズムに思わず体が揺れる。6曲目の<グリズリー・ビジネス>とは「忌まわしい商売」という意味だが、その響きに人相のよくない悪人面の男が忍び寄ってくる様が目に浮かぶ。ここでのホルヘ・ロッシのドラムのフィルインに思わずニッコリ。ブラッド・メルドートリオのドラマーで活躍していたロッシだが、スワロー・クインテットでの彼はより自由で明るい。このCDを聞いて彼のファンが増えること間違いなし。実は、スワローのバンドは当初ドラムレスのカルテットだった。そこへサックスのクリス・チーク、ギターのスティーブ・カーディナスと仲良しだったホルヘ・ロッシがこのバンドの話を耳にして、「僕も仲間に入れてよ、お願い!」と頼み込んだのだとか。その彼のためにスワローはこうしてドラムパートを書き加えたのだ。

8曲目の<スータブル・フォア・フレイミング>では、突如聞こえてくるギターの甘く切ないメロディーにうっとり・・・、続くシャンソン風の<スモール・カンフォート>と共にこれら2曲はスワローの「歌心」の真骨頂だろう。いつのまにか鼻歌まじりにメロディーを追っている自分に気づく。「手、足を使って楽器を演奏するミュージシャンは音数が多くなり過ぎないよう気をつけなくてはいけない。美しい音楽の流れの中で「息遣い」を大切にし、シンプルで効率の良い表現をすることが大切だ」とスワローは言う。「音楽の中での息遣いは最も重要。僕はフランク・シナトラとマーヴィン・ゲイからそれを学んだ」とも。クリス・チークとスティーブ・カーディナスの二人は、ポール・モチアンのエレクトリック・ビバップ・バンド、そしてカーラ・ブレイとチャーリー・へイデンのリベレーション・ミュージック・オーケストラを通じスワローとは長い付き合いだが、年若のメンバーたちがこの座長の教えを受け継いでいることは明らかだ。最後の曲<エクジット・ステージ・レフト>は、舞台上手から退場・・・と、まさに役者が舞台を去る際の言い回しだが、そのタイトル通り、いかにも一座がパフォーマンスを終えて一人ひとりが手を振りながらステージを降りていくかのように聞こえてくる。

アルバムの一連の作品12曲にはストーリーがあり、その展開が実に見事だ。曲順、曲間の秒数にも工夫があって、ほとんど隙間なく曲が続くものもあれば、一呼吸おいてから次の場面へと移っていくものもある。こうなるとアルバムの曲順どおりに聞いてこそ意味があるというもの。これも演出のすばらしさだろう。また、演奏からはライブ・ステージを見ているような臨場感が伝わってくる。なるほどこのレコーディング、実は2011年秋のヨーロッパ・ツアーの終わりに南フランスでスタジオ録音したものだ。幸い私もこの時のスワロー・クインテットをアムステルダムのビムハウスBimhuisで聞いていた!(http://www.jazztokyo.com/live_report/report378.html) 今こうしてCD「イントゥ・ザ・ウッドワーク」を聴きながら、再びこのクインテットの楽しいステージが甦ってくる。音楽にイマジネーションが必要なのはミュージシャンだけじゃない、リスナーとて同じこと。そのリスナーの想像力を刺激してくれるジャズほど楽しいものはない!(2013年8月、小橋敦子)

小橋敦子:
こはし・あつこ。慶大卒。ジャズ・ピアニスト。翻訳家。エッセイスト。在アムステルダム。http://www.atzkokohashi.com/

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