# 1027
『スティーブ・ガッド・バンド/ガッドの流儀』
text by 神野秀雄
BFM Jazz / ビデオアーツミュージック VACM-7116 \2,625(税込) |
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Steve Gadd(ds)
Walt Fowler(flh, tp)
Larry Goldings(key)
Jimmy Johnson(b)
Michael Landau(g)
Arnold McCuller
David Lasley (background,vo)
1. Africa (Michael Landau)
2. Ask Me (Larry Goldings)
3. Country (Keith Jarrett)
4. Cavaliero (Larry Goldings)
5. Green Foam (Steve Gadd,Walt Fowler,Larry Goldings,Jimmy Johnson, Michael Landau)
6. The Mountain (Ibrahim Abdullah)
7. Who Knows Blues (Michael Landau)
8. The Windup (Keith Jarrett)
9. Scatterbrain (Thomas York,Phlip Selway,John O’Brien, Jonathan Greenwood,Colin Greenwood)
Produced by Steve Gadd
Recorded by John Paterno at Unconscious Studios,Pacific Palisades,CA
ガッド流「キース・ジャレット・ヨーロピアンカルテット」へのオマージュを聴く
映画『マーサの幸せレシピ』で流れる『キース・ジャレット/マイ・ソング』(ECM1115)から<Country>。ヤン・ガルバレク(ts)、パレ・ダニエルソン(b)、ヨン・クリステンセン(ds)のいわゆるヨーロピアンカルテットまたはビロンギングによる名曲は、ハンブルクを舞台に料理シーン、寄せ集めの家族が結ばれていく印象的なシーンに使われ、原曲そのものだが、原曲にはない視覚的イメージが膨らんだ。他方、キース・ジャレットに名曲は多いがカヴァーしてもオリジナルを越えることは難しい。そして、まさかのスティーブ・ガッド・バンドによる<Country>、意外にも初めて聴いた瞬間に涙が出た。ガッドのブラシワークとマイケル・ランドウのギターのメロディーから始まるよりスローなワルツ、ウォルト・ファウラーのフリューゲルホルンがサビを歌い上げる。全編にわたりカントリーの感覚に溢れ泥臭さと洗練を併せ持ちながら、ゆったりした時間が流れ、アメリカの大地が浮かんでくる。もう一曲、『ビロンギング』(ECM1050)から<The Windup>にもラテンのリズムの中で新しい生命が吹き込まれている。こうしてみるとパット・メセニー・グループの方がよりキースのオリジナルに近いが、それはオーネット・コールマンとの距離感も影響しているのかも知れない。スティーブ・ガッド・バンドの演奏はキースの原曲から離れながら、かえってキースの魂が浮かび上がる。キースの感性の底にあって、ヨーロピアンカルテットが出せなかった、いや敢えて切り捨てたアメリカ的な音を35年の時を越えて表現したと言えるのではないだろうか。
ガッド・ギャングのセカンドアルバム『ヒア&ナウ』から、スティーブ・ガッドが25年ぶりにスタジオ録音によるリーダーアルバム『Gadditude』を制作。邦題は『ガッドの流儀』。スティーブ・ガッドのプロデュースによるリーダーアルバムは初となる。『ヒア&ナウ』からどれだけ時間が経ったのか、リチャード・ティーとコーネル・デュプリーが参加していたといえばため息が出る。現在のスティーブ・ガッドの活躍の中では、ジェームス・テイラー・バンドが大きな位置を占めるが、そのバンド仲間から結成されたのが今回のスティーブ・ガッド・バンド。最高のミュージシャンの歌をサポートしながら固い信頼で結ばれ、どこまでも息が合い素晴らしいアンサンブルで魅せる。ジェームス・テイラーの『Gadditude』への賛辞がふるっている「この素晴らしいバンドが新しいリードヴォーカルを見つけないか心配だ」
一曲ごとに異なるリズムで、各メンバーが幅広い表現を見せる。凄腕ミュージシャンがそろっても、それぞれの音は重たく緻密にはならず、優れた歌伴がそうであり実際ジェームス・テイラー・バンドがそうなのだが、常に大きく豊かな「間」が存在し、サウンドに一貫した透明感がある。微妙な音色とわずかな音程のゆらぎから生まれる豊かな表現。ジミー・ジョンソンのベースがスティーブとともに心が躍るグルーヴを生み出す。スティーブも曲によってはひたすら同じパターンを叩き続けるが、そこにおかずを加えるでもなくニュアンスが微妙に変化していく。ウォルト・ファウラーはマイルス的な音からケニー・ホーイラー的な音まで様々なスタイルを見せるが、常に暖かさと優しさを感じさせる。マイケル・ランドウは19歳でボズ・スキャッグスのサポートにスティーブ・ルカサーの後任で抜擢、以来ロサンゼルスで多くのミュージシャンの信頼を得て活躍。エフェクターに頼りすぎず生音を生かしながら多彩な音色を生み出し、結果、このアルバムの方向性をさりげなく強く特徴づけている。ラリー・ゴールディングスは電気ピアノとオルガンを中心に演奏し、重たくならずに曲ごとに多彩なカラーを提供する。なおラリーはジャック・デジョネットとジョン・スコフィールドとの「Trio Beyond / Saudades」(ECM1972)でグラミーノミネートされている。
スティーブ・ガッド・バンドは10月に来日が決定している。<Country>はぜひ生で聴きたいし、アルバムからさらにパワーアップして、ライブでどんな多彩な表現とインタープレイを魅せてくれるのか楽しみだ。(神野秀雄)
【関連リンク】
スティーブ・ガッド公式ウェブサイト
http://www.drstevegadd.com
Pledge Music - Gadditude
http://www.pledgemusic.com/projects/stevegaddband/
Gadditude 公式YouTube
http://youtu.be/DUI8Scntink
ラリー・ゴールディングス公式ウェブサイト
http://www.larrygoldings.com
ジェームス・テイラー公式ウェブサイト
http://www.jamestaylor.com
My Song(ECM1115)
Belonging (ECM1050)
【追記】
・スティーブ・ガッド・バンド来日スケジュール
10月9日 名古屋ブルーノート
http://www.nagoya-bluenote.com/schedule/201310.html
10月10日〜12日 ブルーノート東京
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/steve-gadd/
・このアルバムの制作は、BFM JazzとPledge Musicの共同作業で行われている。Pledge Musicを通じて、ファンからアルバム制作資金を調達し、制作過程を共有し、オプションによっては付加価値のある特典や商品が提供される。最上級は「自宅で演奏」。2万ドルだが売り切れていた。ロサンゼルス地域限定なのだが。資金集めに限らずファンとのコミュニケーションを含め、コンテンツビジネスの今後のひとつのモデルとして興味深い。CDについては、アメリカに先駆けて日本先行発売となっている。
・サポートバンドメンバーの独自制作としては、日本では福山雅治バンドの中心メンバー、井上鑑(keyb)、山木秀夫(ds)、高水健司(b)、今剛(g)による井山大今(いのやまだいこん)が目を引く、第2作の「井山大今U」の制作が完了し、9月6日に発売を予定している。
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