# 1031
『アンドラーシュ・シフ/ベートーヴェン:ディアベッリの主題による33の変奏曲 他』
text by 丘山万里子
ECM/ユニバーサルミュージック UCCE-7530/1(2枚組) 5,040円(税込) |
演奏:アンドラーシュ・シフ
曲目: ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
<CD1>
ピアノ・ソナタ第32番ハ短調作品111
ディアベッリの主題による33の変奏曲 作品120
(以上、1921年製ベヒシュタイン・ピアノ)
<CD2>
ディアベッリの主題による33の変奏曲 作品120
6つのバガテル 作品126(以上、1820頃のフォルテピアノ)
録音:
2012年12月27-28日 ルガーノ、スイス・イタリアーナ放送アウディトリオ(CD 1)
2012年7月9-10日 ボン、ベートーヴェン・ハウス(CD 2)
Tonmeister:Stephan Schellmann
Produced by Manfred Eicher
ベヒシュタインとフォルテピアノ、2種のピアノで弾き分けたディアベッリ変奏曲
コンサートが毎回完売という人気ピアニスト、シフの5年ぶりのベートーヴェン・アルバム。しかも『ディアベッリの主題による33の変奏曲』を1921年製のベヒシュタインと、ボンのベートーヴェン・ハウスにある1820年製と思われるフォルテピアノ(オリジナル)で弾き分けるという贅沢な2枚。前後をピアノ・ソナタの結尾を飾る『ソナタ第32番』、最後のピアノ独奏作品となった『6つのバガテル』ではさむという周到な設計である。
やはり聞き物は、『ディアベッリ』。ベヒシュタインとフォルテピアノでは、まるで異なった音響世界が広がる。どちらを好むかはひとそれぞれだろう。ベヒシュタインは、スタインウェイなどのきらびやかで音量豊かなピアノに慣れた耳には、いささか地味に聴こえるかもしれないが、くぐもるような低音の響きから輝かしい高音まで、味わい深い音質を持つ。シフはその美点を十全に生かした変奏を万華鏡のようにくりひろげてみせる。が、筆者はやはりフォルテピアノでの演奏に断然魅せられた。引き締まった堅固な低音、柔らかで熟成した香りを放つ中音、ドライで明晰な高音と、それぞれの音域に独特の表情を持つ響きがシフの指先で変幻自在にゆきかう様は、まさに音色のパラダイス。33の変奏はそんな音の楽園に遊ぶ楽しさを満喫させてくれる。軽快なテーマのあとにくる第1変奏の低音の鳴りは逞しく、つま先立ちで歩くような第2変奏は、現代曲でも聴くような不可思議さをたたえる。第10変奏の音の快速は胸がすくようだし、一転、第11変奏は道ばたの愛らしい花にふと足を止める風情。第13変奏のフォルテとピアノのダイナミックな交差の間合いもスリリング。低音の徘徊がどこか不穏な空気を漂わせる第20変奏から、勢いに満ちた音形が躍動する第21変奏。第26変奏の高音から舞い降り、あるいは低音から這い上がるフレーズのにじむような美しさ。第29変奏からの短調世界は、哀調を帯びた歌が優しく流れる。第32変奏の活発なフーガ、そして最後の優美なメヌエットと、シフの鮮やかな曲さばきに聴き惚れる。このフォルテピアノに向かうベートーヴェンの姿が眼前に浮かんで来るような愉悦のひととき、秋の夜長にぴったりといえよう。
アルバムにはシフの長いインタビューが収録されており、この作品への彼の強い思い入れがうかがえる。こちらも読み応えのあるもので、リスナーには嬉しいところだ。(丘山万里子)
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