#  1034

『井山大今/ 井山大今U』
text by 神野秀雄



高水”大仏”健司、井上鑑、山木秀夫、今剛 ©内田麻美


shiosai
SHCZ-0050 \2,400 (税込)

井上 鑑(keyb)
山木秀夫(ds)
高水“大仏”健司(b)
今 剛(g)

1. Klein Blue (井上 鑑)
2. Stravinspeeding (井上 鑑)
3. Heavy Snow (高水健司)
4. Have A Cake (井上 鑑)
5. Champagne Rugby (井上 鑑)
6. Speech Balloon (大滝詠一)

Produced by 井山大今&石原忍
Recorded by 中澤智、赤川新一、中田武士
Recorded at CRESCENT STUDIO, Publo Workshop, Battle City Sound
Mixed by 赤川新一 at Mimizuk
Mastered by 小泉由香 at Orange

福山雅治バンドの熱狂を支えるメンバーが生み出す究極のアンサンブル

銀座ヤマハスタジオで、9月2日と3日、井山大今(いのやまだいこん)のセカンドアルバム『井山大今U』発売ライブが行われた。両日ともソールドアウト。前半がファースト・アルバム『井山大今』から、休憩を挿んで後半が『井山大今U』から演奏された。セットリストを文末に記したが、彼らのライブの特徴はCDの配列を崩さない(曲を抜くことはあっても)、曲の構成も大きく変わることはない。それだけアルバムと楽曲の完成度が高く、自信を持っているということになる。まじめに音に向き合い、どこまでも楽しそうに演奏する4人。その中からメンバーの持つ強い個性が浮かび上がり、ときに完全に溶け合う。完璧なアンサンブルとその濃密さに酔う。
バンド名は、メンバーの漢字名からひとつずつ、高水健司だけは”大仏”からとっている。『スティーブ・ガッド/ガッドの流儀』は、ジェームス・テイラー・バンドの主要メンバーだったが、井山大今は福山雅治バンドの主要メンバーだ。ひとつのツアーで50万人以上を熱狂させる福山雅治バンドのエンジンである。井上鑑(keyb)はキャプテンとして、福山とともにアレンジとディレクションを行い、徹底的に音楽を磨き上げていく。福山はコンサート会場でもとくに山木秀夫(ds)への厚い信頼を隠さない。毎回、コンサートが終盤盛り上がりに向かうときに気合いをかける福山のひとことは「行くよ!山ちゃん」だ。なお、福山バンドのコアメンバーには三沢またろう(perc)、小倉博和(g)、村田陽一(tb)らがいることも付記しておこう。井上が最も信頼を置く音楽仲間たちであり、ジャズ・フュージョンの世界で最高のミュージシャンたちであるとともに、プロデュース、スタジオワーク、ライブサポートで昭和から平成に至るその時代を代表する歌謡曲、J-Popの数々を支え、その音を特徴付けてきた。個人的にはマライア、KAZUMI BANDでの山木、高水に思い入れがあり、高校2年生で東北の田舎から初めて六本木ピットインに行って聴いたことが忘れられないし、塩谷哲トリオ、Super Salt Bandでの山木にも注目している。また、井上、今をPARACHUTEで記憶される方もあるだろう。また、原発事故からまだ半年、2011年9月の時点で福山バンドとしてだが井山大今の4人と三沢、そして福山が、福島県郡山市での野外フェスティバル「LIVE福島 風とロック SUPER野馬追」に出演してくれたことに深く感謝している。
完璧なアンサンブルで、心地よいパフォーマンスをする井山大今を、言葉で表現するのはかえって難しい。いや、それは無機的であったり、間がない、ステレオタイプにフュージョンだということでもない。いちど聴いた者には、まさに「井山大今の音」ということになる。それだけで、ファースト・アルバムの黄色ジャケットの『井山大今』と色違い同一デザインで青=クライン・ブルーのジャケットの『井山大今U』を迷わずに買う。奇しくも井上がMCで言っていた。「なぜこの四人で演奏するのかを、自分で改めて考えてみたのですが、それはこの四人だから出る音があるからです」。通常なら、コードネームでテンションを指定するところ、井山大今ならたとえば「Em適当に」と楽譜に書くともうその音が出る。適当にやってもピアノとギターがぶつかることもない。井上は自身のウェブサイトで次のように語っている。「フュージョンという言葉の意味するもの、ここにひとつの答えがあります。音楽ジャンルが融合したり化学変化を起こしたりすること、それはここにあるフュージョンの一部分、一面でしかありません。わがままで真摯で大人で子供の4人が織りなす物語はあなたの耳で読んで頂けるように演奏してあります。しかも四半世紀をかけて熟成させて来ました。この音の泡たちのきめの細かさとドライさをきりりと冷やしてご堪能下さい。」
アルバムの最後は『大瀧詠一/A Long Vacation』から名曲<スピーチ・バルーン>がカヴァーされる。高水、今、井上がシンプルにメロディーを奏で、山木が淡々とリズムを刻む。とても美しく切ない。とくに高水のベースによるテーマ演奏には、KAZUMI BANDの頃では<Never Hide Your Face><サヨナラ>などで泣かされてきた。日本の「歌」を支えてきたこの四人が心に持つ、「歌」を超える歌心の奥深さにあらためて心を打たれることになった。(神野秀雄)

【追記】
『井山大今』発売記念ライブ セットリスト
2013年9月2日 ヤマハ銀座スタジオ

To Five to Hide
Keys and Gold
Twisted Waltz
A Morning after Silver Rain
Hang Over
Still River within Myself

Klein Blue
Stravinspeeding
Heavy Snow
Have a Cake
Champagne Rugby
Speech Ballon

Agatha
Kick It Out

shiosai公式ウェブサイト
http://www.shiosai.com/pg116.html
井上鑑 公式ウェブサイト
http://www.akira-inoue.com



『井山大今』(shiosai)


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