# 1039
『Samuel Blaser/Consort in Motion~ A Mirror to Machaut』
text by 悠 雅彦
Songlines SOL - 1604-2 |
1.Hymn
2.Douce Dome Jolie
3.Saltarello
4.Dome, Se VousMestes Lointeinne
5.Color
6.Cantus Planus
7.De Fortune Me Doy Pleindre et Loer
8.Bohemia
9.Linea
10. Introit
11.Complainte Tels Rit au Main Qui Soir Pleure
サミュエル・ブレイザー (tb)
ヨアヒム・ベイデンホルスト (bcl,cl,ts)
ラス・ロッシング (p)
ジェリー・ヘミングウェイ (ds,perc)
ブレイザーの作品を初めて取り上げたのは昨年の、たしか3月のことだっ
た。彼にとっての第5作だったようだが、この直後に hatOLOGY レーベルから『Boundless』を発表しているので、この新作は第7作に当たるのかもしれない。第5作では16、7世紀のイタリアの作曲家モンテヴェルディ、加えてウエニス、ピアージェらイタリアのルネッサンス期を代表する人たちの 楽曲に触発され、彼らの作品をベースにしながらジャズや現代の音楽を通して世界を見てきた演奏家ならではの感性と美的感覚で1つの傑出した作品をつくりあげたブレイザーというトロンボーン奏者の、豊かな音楽性に心地よく酔わされた素晴らしいアルバムであった。現在ベルリンを拠点に活動するこのスイスの演奏家にもっと注目が集まってもいいと、この作品を聴いた者なら率直に思うはず。そう考えていた矢先、彼を紹介してくれた内田泉さんから、10月に彼と連れ立って日本へ行くという連絡をいただいた。12日に四谷の茶会記でブレイザーのソロと彼とのトーク・セッションを行うとの話なので、本号がアップ(公開)された時点で間に合えばぜひ駆けつけてほしい。
さて、この新作には「A Mirror to Machaut」という副題がついている。Machaut とはギョーム・ド・マショーのことで、ルネッサンス音楽以前のフランスの作曲家として歴史的にも重要な人。「ノートルダム・ミサ曲」で知られるこのマショーを中心に、彼のおよそ1世紀後に中世音楽からルネッサンス音楽への転換を押し進めたことで音楽史上の巨匠と目されるギヨーム・デュファイの楽曲をベースにして、演奏を構成している。なぜ彼が中世やルネッサンス時代の音楽に関心を寄せ、ジャズのフォームでこれらの楽曲による演奏を試みようと意図したかは明快には分からないが、生まれたときからこうした音楽に触れ、西洋音楽の歴史を実生活の中で呼吸してきたヨーロッパの音楽家でなければ、生み出しえなかった作品であることだけは確かだろう。もっとも、マショーにせよデュファイにせよ、ブレイザーは単に彼らの典礼曲や、モテットや、世俗的歌謡(シャンソン)を単なるテーマとして扱っているわけではなく、副題の「Mirror」が示すように、これらの楽曲をいわば反射映像のツールとして導入しているのだが、一聴してそれとは分からないほどブレイザーの演奏構成や優れた表現性によって今日的な音楽としての美を獲得しており、そこにこのブレイザー作品の素晴らしさがあるといって間違いないと思う。
第5作で見事なバックアップをしてみせたポール・モチアン(12年11月22日死去)に代わってジェリー・ヘミングウェイが入り、ベースもトーマス・モーガンからドゥリュー・グレスに、ベルギーのサックス奏者ヨアヒム・ボーデンホルストが新たに加わった。ピアノはラス・ロッシングで代わらず、フェンダーローズを用いてサウンドに彩りを添えている。
2、4、7、11がマショーの作品。ブレイザーはマショーの「ノートルダムのミサ」の第1楽章に触発されてこれらのマショー作品を用いたと書いている。とはいえ、5の「Colar」のようにデュファイの楽曲を拡大して構成し直してブレイザー流に彫琢した曲もあれば、8の「Bohemiia」や9の「Linea」のようにクレジット上はブレイザーだが、マショーの楽曲を下敷きにしている楽曲もある。 マショー作品ではグレゴリア聖歌の雰囲気を導入しながら、モード手法を使ったジャズの要素も加味した流れを再創造し、そのためにベースのオスティナートを加えているとも記している。6の「Contus Planus」をピアノのソロにしたアイディアもよかった。オープニングの「賛美歌」が心に静かに漂ってくる。こういう作品では、たとえば強引にジャズにこだわった聴き方をしても妙味は1つもない。(悠 雅彦2013年9月23日記)
* 関連リンク:
『Samuel Blaser/Consort in Motion』(悠 雅彦)
http://jazztokyo.com/five/five900.html
『Samuel Blaser Quartet/As The Sea』(伏谷佳代)
http://www.jazztokyo.com/five/five971.html
『Michael Bates | Samuel Blaser Quintet/One From None』(伏谷佳代)
http://www.jazztokyo.com/five/five992.html
このCD2011海外編 #01『Samuel Blaser/Consort in Motion』(伏谷佳代)
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2011b/best_cd_2011_inter_01.html
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