# 1043
『児玉 桃/鐘の谷〜ラヴェル、武満、メシアン:ピアノ作品集』
text by 藤原 聡 (Satoshi Fujiwara)
ことさらに作品を肥大化させる訳でもなく、さりとて矮小化させるのでもない。誤解を恐れずに言えば、これら3曲の「形」をこれ以上見事に表出させることの出来た演奏は稀かも知れない。そうまで思わせてしまうここでの児玉桃は、すでにして名人の域に達している。
たとえば、当盤で一般的に1番有名と思われるラヴェル:「鏡」所収の楽曲「道化師の朝の歌」。ここでの児玉は、ありがちな名技性を全く前面に出さない。その代わり、ECMとしては珍しい(と筆者には感じられる)、ホールトーンも含めた全体の響きを捉える、というよりはむしろ極めて楽器に近接して収録したのでは? と思われるあまりにディテールが生々しい録音も手伝い、ちょっとした音色の変化やペダリングの妙、万華鏡のように刻々と変化するテクスチュアの厚さ・薄さなどが本当に見事に聴き手に伝わってくるのだ。児玉は女性ピアニストにありがちな、ことさらに繊細さを売りにするピアニストではなく、かと言って自身のテンペラメントをパッショネートに前面に押し出す人でもない。高度な音楽性と圧倒的な技術に恵まれたこのピアニストは、まずもって「思考する」ピアニストであり、その作品の「書かれ方」を突き詰めることにより立ち上がってくる具体的な「音響」を最重視する。当たり前ではないか、ではない。個々の作曲家の本質、個性とは、その具体的な音符の書かれ方から立ち上ってくる何物かであるが、それは演奏者が己の存在を「祝福する」のとは正反対の求道者的な姿勢があって初めて表出可能であろう(この辺り、いかにもアイヒャー好みではないか!)。
武満の「雨の樹素描」においては、既に何種か存在する名盤、例えばピーター・ゼルキンや野平一郎盤らともまた一味違った味わい(静的な中にも存在する独特の律動感が他のピアニストでは感知できなかった!)があり、そしてメシアンの大作「ニワムシクイ」では、もはや日本におけるメシアン演奏の第一人者と言っても過言ではない児玉が、完全に手の内に入った、としか形容できぬ名演を披露している(但し、色彩の洪水、というよりは幾らか抑制されている。これがまたすばらしい)。
最後に。この児玉のECMデビュー盤、曲目・演奏とも一聴地味と思われるかも知れない。しかし、何度も聴く事。どんどん凄さが沁みて来ます。(藤原 聡)
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