# 1046
『Aaron Parks/Arborescence』
text by 多田雅範 (Masanori Tada)
20代の頃にECMを聴き始めた頃に感じていた精神のざわめく感覚が蘇っている
発売はイェーヲン・シンが少しだけ先発だったけど、ECMレーベルの新しいプロデューサー、サン・チョンが初めて手がけたレコーディングはピアニストのアーロン・パークスだったのですね。
アーロン・パークスのリーダー作『Invisible Cinema』 (Blue Note) 2008 は聴いた記憶はあった、タイコのエリック・ハーランドに耳をそばだてたくらいで、ピアノはスケール練習を上手く弾けてるくらいにしか認識していない。スーパーバンド“ジェームス・ファーム”にしても、「1箇所もグッとくるところがなかったCDだけど、さすがハーランドは巧い!ハーランド無かりせばグループ成立しないだろ、ジョシュアがハーランドに拝み倒してカルテットを組もうとして“ジョシュア、おまえの名前のカルテットはやだよ、グループ名を立ててくれ”と言われたのが真相ではないか、と、思わせた力学が聴こえる出来。」というスルー具合。ディスコグラフィー見ると、ギター皇帝カート・ローゼンウィンクルの『Star Of Jupiter』 2012 で弾いていたのか、ローゼンウィンクル〜ターナーの名作ライブ盤『The Remedy』2CDのほうは?...ピアノはAaron Goldberg だ。おお、07年の年間ベスト盤に掲げたフェレンク・ネメス『Night Songs』のピアノがアーロン・パークスだった!
メインストリーム系のトップ・プレイヤーを際立たせる名脇役ピアニスト、それ以上の評価は無かった。ブルーノートでリーダー作出したピアニストがECMでソロ??? サン・チョン、大丈夫か!
音楽が怖ろしいのは、聴くたびに響きが表情を変えるところだ。
この作品を初めて聴いた時は、ナルシスティックに感じたり、フランス風クラシックを連想したり、たどたどしいオスティナートの向こう側がすぐには見通せなかった。ハズレかと思った。
You Tube でアーロン・パークスが弾く動画を見た。頭の振りのスイングと、それが肩と腕を伝わって指先の動きが奏でている。まあ、ズレるわけだ。で、頭を振るピアニストは大方ズレる。ズレ方が個性だとも言える。「ああ、こういうふうに弾いているのか」と感じた。そして、そのあとにこの作品を聴くと、森の中を分け入って歩き始めているように耳の旅路が始まった。
イェーヲンの作品でも書いたが、アイヒャーが録る抑圧をここでも感じることはできない。別稿で指揮者のチョン・ミョンフンを“反重力の指揮者”と形容している。ミョンフンも新しいECMのキーマンだ。
『ECM Catalog』(河出書房新社)を書く際に、編者の稲岡さんから「浮遊感というキーワードは禁句にしようか」との提案があった。ECMレーベルの音楽に浮遊感は偏在し、それを記述するのは安易だということだろう。提案を聞いた書き手たちは、当たり前のように微笑んだ。
アイヒャーの手がける仕事には、ヨーロッパの、ドイツの知性に由来するガイストが存在する。ガイストに由来する知性、か?
韓国人プロデューサー、サン・チョンもまた“反重力のプロデューサー”と言えないだろうか。
この作品を聴きながら、かつて20代の頃にECMを聴き始めた頃に感じていた精神のざわめく感覚が蘇っている。芸術だけが持っている孤独な場所だ。ピアノのオスティナートに幻惑されているだけではない。(多田雅範)
*試聴サイト;
http://player.ecmrecords.com/aaron-parks--arborescence
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.