#  1048

『今村夏海/アルムンド(世界へ)』
text by 悠雅彦(Masahiko Yuh)


Pitch 441 PICN-1003

1.グラナダ
2.エル・ソル・デ・ロス・ヴェナードス
3.エル・レイ・デ・ラ・ウアステカ
4.ラ・ビキーナ
5.ウアパンゴ
6.魔女/ブルーハ
7.白ワイン
8.アスンシオンに咲く花
9.ティコ・ティコ
10.スペイン
11.もしもあなたがいなかったら
12.トロピカル・ジャム

今村夏海(Arpa,vcl)
ダビ・メルガレホ・ウェス(bass ,guitar,requinto - jarana,cuatro,vcl)
ルベン・メルガレホ・ウエスカ(guitar,bass,jarana,perc,palmas,vcl)
ミゲル・アンヘル・ロペス・サンチェ(vcl)
アレハンドロ(palmas)
篠崎正嗣(vln)
佐藤唯史(castanet)

メキシコの太陽を連想させる明るい音色と陽気に弾む響き〜ヴェラクルス・アルパの期待の新鋭・今村夏海の新作

 今村夏海はヴェラクルス・アルパ(アルパ・ハローチャ)、すなわちメキシコのヴェラクルス地方で発展したハープ演奏の期待の新鋭である。
 その今村夏海と、彼女の先生でヴェラクルス・アルパの第一人者でもあり、それ以上にメキシカン・フォルクローレの傑出した知性というべきアルベルト・デ・ラ・ロサの共演するコンサートがCD発売と同時に銀座のヤマハホールで行われ(11月1日)、客席を埋めたファンを魅了した一夜から話を始めたい。ロサのグループはトレン・ウイカニといい、ダビ・メルガレホ・ウエスカとルベン・メルガレホ・ウエスカの兄弟の3者からなる。ロサは主にレキントハラナというメキシコのギター、ウエスカ兄弟の兄は主にベース・ギター、弟はハラナなどのギターを担当する。だが、見ていて分かったのはこの3者はアルパから各種ギターや打楽器にいたる楽器をすべて操るという驚くべき演奏家たちだった。今村は、温かな眼差しでバックアップする師のロサや、ウエスカ兄弟、日本の打楽器の第一人者・佐藤唯史らの完璧な演奏に支えられ、アルパに、ときにヴォーカルを混じえて、著しい成長を印象づけるパフォーマンスで聴く者を魅了した。私は彼女がデビューした15、6歳の頃からステージを見ているが、その生真面目さはアルパへの尋常ならざる情熱とともに少しも変わらない。通常の演奏家のようにラテン音楽ならではのホットな躍動感を身体の運動性で表さない彼女の演奏は、ほとんどスイング(躍動)していないように見える。ところが、目を閉じて聴くと、彼女のサウンドは実に活きいきとした躍動感に彩られているのだ。その良き例の1つがこの新作でも演奏しているチック・コリアの「スペイン」。リズムや音楽する内的エネルギーが躍動していない「スペイン」なんて考えられない。彼女の「スペイン」は見た目とは逆に、これ見よがしの嫌みがまったくない、実に自然な躍動性で弾んでいるのだ。非凡な能力というべきだろう。師匠と共演して妙な野心をかいま見せることもなければ、かといって遅れを取ることもない。自然で伸びやかなその演奏ぶりは、彼女が大人に脱皮しつつある姿を強く印象づけるものだった。
 このCDは6年ぶりの、2007年の『メヒコの彩色』に次ぐ通算3枚目のリーダー作。今年の3〜5月に師匠のロサやトレン・ウイカニの面々と現地ヴェラクルスで吹き込んだもの。師のロサは実際の演奏には参加していないが、ウエスカ兄弟に加え、ミゲル・アンヘル・ロペス・サンチェス(vcl)らが助っ人参加し、数曲でヴァイオリンの篠崎正嗣が曲趣を盛り上げる味わい深い演奏で彩りを添えている。
 この6年の間に今村夏海がいかに演奏家として精進を積み、才能に磨きをかけてきたかが、この新作を聴くとよく分かる。アルパと言えば日本ではルシア塩満(今村の演奏する「アスンシオンに咲く花」(8)はルシアの得意曲)が第1人者だが、彼女がパラグアイのアルパ奏法を身につけた屈指の演奏術を誇るのに対して、今村は日本ではヴェラクルス・アルパ、すなわちアルパ・ハローチャの恐らくは唯一の演奏家であり、メキシコの太陽を連想させる明るい音色と陽気に弾む響きがこの新作の各曲に横溢する。彼女も今年20代半ば近くになって、恐らくは一段と飛躍するジャンプのときを迎えつつあるのだろう。若い才能が地道にこつこつと努力して開花していく、その素晴らしい例を私たちは今、今村夏海に見い出しつつある。ヴェラクルス生まれのアウグスティン・ララの名曲「グラナダ」に始まって、先記のコンサートでも聴衆を魅了した「ラ・ビキーナ」や彼女の素直なヴォーカルが聴ける「魔女」などに加え、「ティコ・ティコ」や先述の「スペイン」、R&B歌手アリシア・キースのヒット・ワルツ曲「もしあなたがいなかったら」で締めくくる本作は、華麗な変身とでも表現したい今村夏海の驚くほどの成長を間近に聴いて楽しめる新作であり、ラテンに限らない多くの音楽ファンに一聴を薦めたい。(悠 雅彦/2013年11月12日記)

* http://sky.natsumiarpa.com/frame.htm

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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