#  1049

『Various Artists/Long Story Short: Wels 2011 Curated by Peter Brötzmann』
text by ビル・シューメイカー(BillShoemaker)


Trost TR112

Ken Vandermark,Mats Gustafsson,Peter Brötzmann,John Tchicai,Mars Williams(reeds)/Jeb Bishop,Johannes Bauer(tb)/Joe McPhee(tp)/Per Ake Holmlander(tuba)/Fredrick Lonberg-Holm, Okkyung Lee (cello)/Kent Kessler, Eric Revis(b)/Massimo Pupillo,Bill Laswell, Marino Pliakas, Eduardo Delgado-Lopez(el-b) /Paal Nilssen-Love,Michael Zerang,Nasheet Waits, Hamid Drake, Michael Wertmüller, Danny Arnold Lommen (ds) /Jason Adasiewicz (vib)/Martin Siewert(g, effects=ring stinger,electronics; Dieb13 - turntables,effects =cigar box)/Caspar Brötzmann(g,voice)/Xu Fengxia(guzheng) /MaÂllem Mokhtar Gania(guimbri)

八木美知依(箏)/佐藤允彦(p)/近藤等則(tp, electronics)/森山威男、本田珠也、豊住芳三郎(ds)灰野敬二(g)

Recorded at the 25th edition of the Unlimited Festival in Wels, Austria, November 3-6, 2011.
Artwork, Design, Supervised by [curated by] Peter Brotzmann
Compilation Producer :Konstantin Drobil
Compiled & edited by Peter Brötzmann & Peter Neuhauser
Recorded & mixed by Manuel Mitterhuber

フクシマ支援のヴェルス・フェス2011の超弩級白熱の演奏を収めた5枚組CD

“リメンバー・フクシマ”(福島を忘れるな)だって? ついこの前の出来事じゃないか。たしかに、西洋人の頭の中では福島の原発事故より超能力を持つ月の影響を受けるフェンディ湾(註:世界一干満の差が激しいことで知られる北米の湾。アメリカとカナダで国境を分ける)の潮流の方がやや関心が高くなっているかもしれないがね。ヴェルス・アンリミテッド・フェスティバル(註:オーストリア・ヴェルス市)とペーター・ブロッツマンの尽力のお陰で、ブロッマンのテンテットに日本人のインプロヴァイーザーたちを加えた特別編成のアンサンブルの2011年の演奏がDVD化された。チーム・アンリミテッドのヴォルフガング・ヴァッサーバウアーがライナーノーツに記しているように、フェスティバル当局としては25th Editionに「the total Brotzmann, the whole Brötzmann」の出演を望んでいたようだが、ほぼ半年をかけて大震災から8ヶ月後の日本の選抜チームを加えた臨時編成のブロッツマンのテンテットの出演が決まったようだ。DVD『コンサート・フォー・フクシマ;ヴェルス 2011』と5枚組CD『ロング・ストーリー・ショート』が示しているのは、日本の即興演奏団の活力と多様性が再確認できただけでなく、彼らの参加により過小評価されていた地球人としてのブロッツマンの存在がより大きく浮上したことである。

CD1に収録されたシカゴ・テンテットがパワーを全開して演奏している間、ジョン・チカイのフレーズ“the task at hand” が連呼に変わって行く。彼の歌は彼のサックス演奏の延長上にあり、またその帰結でもあるのだが。このより大きな目的意識はコレクションの全編を通じて音楽の訴求力を強め、高めて行く。しかし、その強大さは結果として必ずしも目に見える形として結実するものとは限らないのではあるけれども。箏奏者の八木美知依、チェリストのオキュン・リー、中国古箏のスー・フンシャが時間をかけて注意深く紗のようなテクスチャを織り上げていく。ゲンブリ(註:モロッコ・グナワのベース三線)の名手であるマーレン・モクタール・ガニアとドラムスのマイケル・ゼランが、チェロとギターのフレッド・ロンバーグ=ホルムの砂塵のようなテクスチャやジョー・マクフューの火を吹くアルトサックスにも惑わされることなくじっくりとうねるようなグルーヴを作り出して行く。佐藤允彦のピアノ・ソロは快活でラプソディック。彼のばねのようなオスティナートと右手の飛翔するラインの交換はどこかアブドゥラー・イブラヒムとランディ・ウェストンを思い出させる。しかしながら、彼の特徴的なアタックと突出したスピード、それに途切れなく素材を展開していくやり方は独自のものである。

ブロッツマンにも比較的抑制された瞬間がいくつかあった。リード奏者のマッツ・グスタフソンとケン・ヴァンダーマークを従えた自身のトリオ「Sonore」によるCD1のオープニングのインプロヴィゼーションは必ずしも軽く、空気感のあるものではなかったがスペースがあり、ブロッツマンにフレーズを選ばせる時間の余裕を与えていた。ベーシストのエリック・レヴィス、ドラマーのナシート・ウェイツとの30分に及ぶ火を噴くような交換はソウルフルな哀歌のよう。長く大きな強打の中にあって台風の目の静けさのような瞬間。ガニア、ベーシストのビル・ラズウェル、ドラマーのハミッド・ドレイクとのほとんど1時間にも及ぶ速射砲のような演奏も他にあったが、ブロッツマンは荒削りだが耳をそばだてさせるメロディを吹出していた。それでもなお、ブロッツマンのトレードマークである豪腕ぶりはつねに音楽に満ちていたし、共演者もそれに加担していたのだ。ブロッツマンがトランペッターの近藤等則のような古い演奏仲間と組んだ時に絶えず火種を投げかけるやりかたは妙に魅力があるものだ。
「Die Like a Dog」カルテット(註:ブロッツマン、近藤、ウィリアム・パーカー、ハミッド)と同じように、「Hairy Bones」カルテット(註:ブロッツマン、近藤、マッシモ、ポール)におけるベーシストのマッシモ・プピロ、ドラマーのポール・ニルセン=ラヴとの信頼関係には、ふたりのヴェテランとの関係とはまた違った際立った明快さがあった。(ビル・シューメイカー/Bill Shoemaker:the publisher for a music online journal:Point of Departure)

Point of Departure:
http://www.pointofdeparture.org/PoD44/PoD44MoreMoments2.html

Translated by Kenny Inaoka with the permission from the publisher.

*コンサート、CD、DVDの収益は “Save TAKATA””Project Fukushima”に義援金として寄贈されます。

http://www.efi.group.shef.ac.uk/labels/panrec/pandvd08.html
http://differentperspectivesinmyroom.blogspot.jp/2013/05/peter-brotzmann-long-story-short-2-5-cd.html
http://www.japanimprov.com/indies2/trost/longstoryshort.html
* CDセットは水道橋のftarriからも購入できます:
http://www.ftarri.com/cdshop/goods/trost/tr-112.html

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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