何百万という日本人たちに流布されるであろう現実の強力な縁（よすが）

CD『Long Story Short』に収録された演奏の過半に匹敵する強力さを持ったDVD『コンサート・フォー・フクシマ』はさらに魅力的である。近藤、八木、ギタリストの大友良則、サキソフォン奏者の坂田明がブロッツマンの「シカゴ・テンテット」に加わって、４部からなる＜日本の風景＞を演奏する。ブロッツマンのヴィジュアル・アートは、仮にそれが１枚の木片やハエタタキの列であったとしても、ひとつの身振りやイメージ上に意味が大きく集約されている。たとえば、＜日本の風景＞のように長尺の作品にしても同じことが言える。ひとつの動機あるいはひとつの叫びすらブロッツマンのいくつもの素材に発展し得るので、１曲のまとまりや展開はひとえに共演者の反応に大きく依存することになる。

彼の目的については、ブロッツマンがかつて率いたどのラージ・アンサンブルよりもシカゴ・テンテットが良くわきまえ認識していることは疑う余地のないところである。日本のインプロヴァイザーたち、とくに世界でもっとも先鋭なアルト奏者のひとりである坂田の貢献は、単なる“ゲスト”のそれではない。彼らは作品の心臓部に居るのではなく、作品の心臓そのものといえる。残念ながら、パヴェル・ボロディンが監督したカメラワークが傍観者的であることだが、それはカメラが劇場の裏にしか設置できないという劇場のレイアウトに自由を奪われているからだ。それでもなお、この記録は観る必要はないかもしれないが、何年にもわたって何百万という日本人たちに流布されるであろう現実の強力な縁（よすが）として傾聴すべき音楽である。（ビル・シューメイカー／Bill Shoemaker：the publisher for a music online journal:Point of Departure）

Translated by Kenny Inaoka with the permission from the publisher.

＊コンサート、CD、DVDの収益は “Save TAKATA””Project Fukushima”に義援金として寄贈されます。

Point of Departure:
http://www.pointofdeparture.org/PoD44/PoD44MoreMoments2.html

http://differentperspectivesinmyroom.blogspot.jp/2013/05/peter-brotzmann-long-story-short-1-5-cd.html
*このDVD は、ディスクユニオンからも購入できます：
http://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245585971