# 1051
『Meg Okura & The Pan Asian Chamber Ensemble/ Music of Ryuichi Sakamoto』
text by 稲岡邦弥 (Kenny Inaoka)
autoprodotto AAM0705 |
Meg Okura & The Pan Asian Chamber Orchestra:
Meg Okura(arranger, vln, erhu)/Anne Drummond(fl,alto-fl)/Helen Sung(pf)/Dezron Douglas(b) /E.J. Strickland(ds) /J.C. Sanford(conductor)
1. Grasshoppers
2. Riot in Lagos
3. Tango
4. Grief
5. Merry Christmas Mr. Lawrence
6. The End Of Asia
7. You’ve Got To Help Yourself/Ishin Denshin
8. The Last Emperor Theme
9. Thousand Knives
10. Helen’s Intro
11. Water’s Edge
12. Perspective
Produced by Meg Okura
坂本龍一の12作品をエキサイティングなチェンバー・ジャズとして見事に甦らせたメグ・大倉の手腕に脱帽
坂本龍一がジャズを卒業して久しい。いまでは、坂本がジャズを演奏していたことすら知らないファンも多いことだろう。その坂本の作品がチェンバー・ジャズとして見事に甦った。一聴して心躍るのは全編にNYのジャズのフィールが横溢していることである。しかも坂本の多岐にわたる知的好奇心のエッセンスが失われていない。リーダーのメグ・小倉は、桐朋学園女子高を卒業後ジュリアードに学んだヴァイオリニストだが、現場でのさまざまなジャズ・ミュージシャンとの出会いを通してジャズの語法を獲得、いまや自立したニューヨーカーとしてNYのミュージック・シーンで活躍しているキャリア・ウーマンである。「パン・エイシャン・チェンバー・ジャズ・アンサンブル」(PACJE)というネーミングも、競争の熾烈な“アメリカで成功できるバンドのブランディングを意識した”、と述べるなど(別掲インタヴュー)上昇志向も極めて旺盛。このアルバムも、“ジャズのハーモニーとリズム、即興を組み込みながらも、作曲、オーケストレーション、構築がクラシックの室内楽の手法に則った”というまさにコンセプト通りの仕上がりになっている。メンバーは何れもNYのジャズ・シーンで活躍している旬な人たちで、ドラムスのE.J.ストリックランドはラヴィ・コルトレーンのレギュラー÷メンバーとして新作でも目に付いたひとりである。
曲の選択は、坂本の音楽が身近にあった彼女の耳に馴染んだものを選び出したとのことだが、期せずしてYMO時代から映画音楽を挟んで最近のコンテンポラリーまで、坂本の広範な音楽活動を反映するものになっている。さまざまな音楽的スタイルを持つ12の素材が、PACJEというクインテットを通して新たなディッシュとして提供されたわけだが、その過程でメグ・大倉というひとりのシェフ(編曲家)の腕の冴えが傑出していたという事実を高く評価すべきだろう。
アルバムは、坂本のソロ・デビュー作『千のナイフ』(1979) 収録の<グラスホッパーズ>から始まるが、変拍子、エスニック風味、ジャズ・ワルツと、PACJEのトレードマーク的内容。2曲目のファンキーさ、3曲目のタンゴ、4曲目の コンテンポラリー的ハード・コア、<パースペクティヴ>のヒップホップと表情が刻々と変わる。ピアノとフルートにも充分なソロ・スペースが与えられているが、やはりヴァイオリンの存在感が大きい。<ラスト・エンペラー>のメグによる二胡のソロも聴きもの。4曲目の<Grief>(嘆き)は、Anger(怒り)と合わせてリミックス盤がリリースされているが、オリジナルはCD-EXTRAとして発売された。坂本のコンテンポラリー性をもっとも強く表現した演奏で、カオス的側面を見せるハード・コアな内容。演奏に指揮者を必要としたそうで、スリルに富み聴き応えは充分。(稲岡邦弥)
Interview:
http://www.jazztokyo.com/interview/interview122.html
http://www.youtube.com/watch?v=FVWweYypBtU
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
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第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
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#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
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