# 1052
『加古 隆/アンソロジー』
text by 稲岡邦弥 (Kenny Inaoka)
エイベックス・クラシックス AVCL-25774-5(CD2枚組) \3,150(税込) |
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Disc 1:(Jazz)
1. パラドックス
2. ナイト・ミュージック
3. ドデック
4. マイクロ・ワールド
5. チトン通り11番地
6. 僧院の庭
7. スクロール
Disc:2 (Poesie)
1. ポエジー (ピアノ・ソロ)
2. 秋を告げる使者 (ピアノ・ソロ)
3. ジブラルタルの風 (ピアノ・ソロ)
4. アクア・ブルー (ピアノ・ソロ)
5. パリは燃えているか (NHKスペシャル「映像の世紀」テーマ)
6. 黄昏のワルツ (NHK「にんげんドキュメント」テーマ)
7. 白い巨塔~オープニング・テーマ (フジテレビ・ドラマ「白い巨塔」より)
8. 財前のテーマ-果てしなき野望 (フジテレビ・ドラマ「白い巨塔」より)
9. フェニックス (NHKスペシャル「プロジェクトJAPAN」エンディング)
10. 大河の一滴-序章 (映画「大河の一滴」より)
11.大河の一滴(大河の一滴−映画「大河の一滴」より)
12.風のワルツ(映画「阿弥陀堂だより」テーマ)
13.博士の愛した数式〜愛のテーマ(映画「博士の愛した数式」より)
14.明日への遺言(映画「明日への遺言」より)
15.最後の忠臣蔵〜夢なれど〜(映画「最後の忠臣蔵」より)
1973年パリでのジャズ・ピアニストとしてのデビュー以来40周年を迎えた加古隆の集大成
奇しくも同じ誌面で加古 隆と坂本龍一の作品を扱うことになった。ふたりは似ていないようでいて、キャリアが被るところがいくつかある。兵庫県生まれの加古は東京生まれの坂本より5才年長で、東京藝大の大学院も5年早く卒業したが、ふたりとも在学中に三善晃に師事した時期がある。加古は大学院修了後、フランス政府の給費留学生になり、パリ国立高等音楽院に入学、オリヴィエ・メシアンの生徒となる。坂本は大学院生の頃から音楽シーンに立ち入り、スタジオ・ワークなども経験していた。加古は、高校時代にアート・ブレイキーの来日公演を聴いてジャズに開眼したものの、ジャズ・ピアニストとしてデビューしたのはパリ時代である。坂本もジャズに開眼したのは高校生の頃のようだが、すでに現場で演奏もしていたようだ。ふたりともジャズを卒業した後、映像と係わりを持ち始めるが、加古のTVの主戦場はNHKで、坂本も直近の活動はNHKの大河ドラマ『八重の桜』の音楽である。現在、加古はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロを加えたクァルテットを基本ユニットにしているが、坂本の基本ユニットはヴァイオリンとチェロを加えたトリオに留めている。
加古がパリでジャズ・ピアニストとしてデビュー以来40年、プロ・デビュー40 周年を記念して今年2種のCDをリリースした。40年間の活動を集大成した2枚組CD『アンソロジー』と、基本ユニットのクァルテットによる『QUARTET II』である。上掲の曲目リストにあるように、『アンソロジー』の1枚目はジャズ演奏のコンピレーションで、2枚目はジャズ以外のピアノ・ソロと映像作品のための音楽を集めたもの。どの曲もコンサートやアルバムで何度も演奏されている曲が多いのですでに耳馴染みだと思うが、ここに収録されているのが基本的にはオリジナル・ヴァージョンである。ただし、加古のコンサートの定番曲のひとつ<チトン通り11番地>は、1985年2月に渋谷・パルコ劇場で収録されたソロ演奏となっている。この時おそらく加古は、自然発生的にこの曲のテーマを生んだパリのアパルトマンにワープし、自由奔放に弾きまくる恐れを知らぬ若い異国のピアニストの演奏に耳をそばだてるパリの聴衆を幻想していたのではないだろうか。何かが乗り移ったかのように加古のピアノは徐々にダイナミズムを増しファー・アウト、ついには極限に達して果てる。最近の加古の穏やかなピアノしか知らないファンは度肝を抜かれること必至である。70年代の加古にこのような激越な演奏は珍しくはなかった。そして、加古のジャズ時代の精華はケント・カーター(b)、オリヴァー・ジョンソン(ds)とのトリオ、TOKに集約される。加古がジャズを演奏しないひとつの理由は、究極を経験したTOKに匹敵するトリオを組める可能性を見出せないからだ。ケントは現役で活躍しているものの、オリヴァーは2002年3月、泥酔したままパリの公園のベンチで一夜を明かし、帰らぬ人となった。加古は、TOKとしてやりたいことはやり尽くしたと明言しており、仮に、オリヴァーが生存していたとしても、TOKが再結成されるという意味ではもちろんないのだが。1と3、4はそのトリオが核となった演奏。3はトリオにクロード・ベルナール(sax)と沖至(tp)が参加、4には故・スティーヴ・レイシーのパートナーがヴァイオリンとヴォイスで参加している。1と2(ソロ)は、ECM/JAPOの録音から、6、7は吉野弘志(b)とポンタ村上(ds)とともに日本で組んだトリオで、7にはサックスの井上淑彦が加わっている。結局、加古がジャズを集中的に演奏していたのは15年ほどだったことになる。
Poesieと題されたDisc 2は、即興中心のジャズと訣別した加古の音楽キャリアの後半生の集大成ということになる。オープナーの<ポエジー>は、まさにそのきっかけとなった曲で、イギリス民謡<グリーンスリーヴス>の変奏曲である。ニッカウィスキーのTVCMに起用され、全国的な知名度を得ることになった。加古の先鋭的なコンテンポラリー・ジャズを愛してきた者にとっては決して癒しにはならなかったが、不特定多数のリスナーが加古の純度の高い音楽に接触できる状況ができたことは喜ばしいことには違いない。5曲目以降はTVと映画のための作品でシンフォニックな響きを楽しめる。リスナーそれぞれがそれぞれの想いとともに聴くことになるのだろうが、どの曲にも共通しているのは純度が高く寄り道をせずに真っ直ぐ琴線に響いてくるということである。親しめるメロディであっても聴き手に媚びるところがまったくない。それは真摯に音楽ひとすじに打ち込む加古の生き方自体を反映したものでもあるのだろう。Disc 2でとくに僕の印象に残っているのは、<パリは燃えているか>である。NHKスペシャルの「映像の記録」。この番組では、音楽が映像と対等に扱われ、あるいは、それを可能にする音楽の完成度だったのだろうが、画期的ではあった。ある映像プロデューサーに「ああいう作品をつくりたかったんだ。あの番組を観ていると自然と涙があふれてくる」としみじみ打ち明けられたことが強く印象に残っている(稲岡邦弥)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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