#  1056

『Tim Berne’s Snakeoil/Shadow Man』
text by 多田雅範 (Masanori Tada)


ECM 2339

Tim Berne (as)
Oscar Noriega (cl,b-cl)
Matt Mitchell (p, Tack and Wurlitzer pianos)
Ches Smith (ds, perc, vib)

1. Son Of Not So Sure
2. Static
3. Psalm
4. OC/DC
5. Socket
6. Cornered (Duck)

Recorded January 2013 at Clubhouse, NY
Engineer: Joe Branciforte
Mixed by David Torn at Cell Labs
Produced by David Torn and Tim Burne

アンサンブルの力量で。

聴く者もまた、走らなければならない。

昨年のジャズ・シーンで、間違いなく世界のトップランクにあったのはヘンリー・スレッギルと菊地雅章トリオとこのスネイクオイルのアンサンブルの強度だ。

益子博之(音楽批評)と現代ジャズを語り合う四谷音盤茶会(通称タダマス)で掲げたトップ10作にも反映させた。10月に行ったタダマス11について福島恵一(音楽批評)がブログ耳の枠はずし「アンサンブルの解体/再構築の後に来るもの」で、耳を開かされることの多い貴重な「ライヴ」の場だと評してくれたのも嬉しかったし、何よりもここで語られている現代ジャズの展望には瞠目すべきものがある。

ティム・バーンは80年代半ばのM-BASE一派から頭角を現してきたサックス奏者で、90年代は自己のレーベルscrewgunで世界最凶暴のジャズ熱波を放出し続けた猛者。もはや59さいだ。ともに聴いてきたおれも52さいだ。Screwgun スクリューガンのサイトを見ると、この新作と『サイエンス・フリクション』(2002)がトップに掲げられる。

ずっとティム・バーンに魅せられてきた。世界最凶暴のジャズ熱波、は、フリージャズではない。やみくもに腕を振り回す喧嘩に近しいものと、運動性がいわば瞬間コンポジションされ長いスパンで見通されているプロボクシングのタイトルマッチがあるとすると、圧倒的に後者であるものとして聴いてきた。スクリューガンという自主レーベルにリリースされる作品のすべてがそうだ。マルク・デュクレも、ジム・ブラックも、クリス・スピードも、マイケル・フォーマネクも、思えばこのレーベルからシーンのキー・プレイヤーが輩出している事実に気付く。

(大きな話で振り出してしまった)

本作はティム・バーン率いるスネイクオイルのECM第2弾。プロデュースは、アイヒャーの手を離れてティム・バーンとデヴィッド・トーンが担っている。静寂に音を重ねながらECM作品のイントロダクションを飾るようなトラックをインタールードのように3番目に持って来て、彼らが1曲目に配置した、耽溺しないリアルな手触りのインタープレイトラックのありように「一歩進んだ」ものを感じる。もちろん彼らの本領は2トラック、4トラック目の躍動するアンサンブルの運動性だ。ティム・バーンはECMの場でより大きなコンポジションの可能性を視ているようだ。メンバー4人の身体能力、演奏力の高さがそれを可能にしている。


10月に行ったタダマス11で、マット・ミッチェル(ピアノ)とチェス・スミス(打楽器)のデュオ盤、これが PI Recordings でのもの、このスネイクオイルのリズム隊だ。このトラックがラストに選曲され、わたしはそこでのピアノに“血塗れのクレイグ・テイボーンではないか”とおののいた。彼らの表現の根源に抱えた獰猛な闇といったものは。

十数年前からECM者のわたしがティム・バーンやスクリューガンの諸作にうつつを抜かしていることに、「ECMファンのひとが?」と何度も驚かれた記憶があるけれども、何もティム・バーンの音楽がハードコアでエネルギッシュであったことではない、一度耳にすると、性急な乾きを喚起されそこに把握しきれない謎が存在し追いかけるしかない状態に置かれることだ。(多田雅範)

* 関連リンク;
http://www.jazztokyo.com/five/five890.html

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
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#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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