#  1058

『西山 瞳/クロッシング』
text by 神野秀雄


Meantone Records MT-005
(販売:ディスクユニオン)
2,520円(税込)

西山 瞳 ピアノソロ (FAZIOLI F228 Silver)

1. Monochrome Flowers*
2. A.J. Crossing*
3. からたちの花(山田耕筰)
4. Giraffe’s Dance*
5. めぐり逢い(武満徹)
6. That Day*
7. Il tuo amore(Bruno Lauzi)
8. 錦の館(木村知之)
9. Paradigm Shift, Dimension Shift* 
10. Le vase de sable* 
11. Call*
12. 死んだ男の残したものは(武満徹)
13. 月下に舞う(橋爪 亮督)
*西山 瞳

録音:2013年5月28日 仙川アヴェニューホール
録音エンジニア:春日 洋
ピアノ技術:越智 晃(FAZIOLI日本総代理店 ピアノフォルティ株式会社)
ジャケット写真:津久井 珠美
ディレクター:真鍋 悟 (diskunion)

イタリアの銘器ファツィオリで披露する西山 瞳初のソロ・ピアノ <Monochrome Flowers>から始まり<A. J. Crossing>へ、西山の美しいメロディーと響きがピアノから静かに流れ出す。<A. J. Crossing>はタイトル曲にあたり、A. J.とは池袋のジャズクラブ「Apple Jump」。常に状態よく保たれたピアノと残響にインスパイアされて、ソロピアノのリハーサル中に10分ほどで書いたという。2010年にインターナショナル・ソングライティング・コンペティションでジャズ部門第3位を獲得し、西山の作曲の能力は世界的に評価されている。このアルバムでも優れたオリジナルの数々を披露しているが、トリオでのアルバムに比べてカヴァー曲も多い。ソロで弾きたい美しい音楽として山田耕筰の<からたちの花>、武満徹の<めぐり逢い><死んだ男の残したものは>を含めているのが目を引く。そのシンプルで日本的なメロディーは、私たちの心の奥深くへ染み込んでいく。今回、西山が自然にできる音楽、弾きたいと思う曲を集め、26曲59テイク録音したが、その選曲にあたっては「意図せず自分が日本人だということを深く再確認することとなった。」という。またファツィオリに因んでイタリアのポップスナンバーから<Il tuo amore>、作曲の恩師でジャズベーシストの木村知之の<錦の館>が取り上げられ、最後に橋爪亮督の<月下に舞う>で締められる。西山のピアノと橋爪のサックスのデュオで聴く機会があったが、ソロピアノでは、きらめくようであり、うつろうようでもあり、まさに音たちが舞っている映像が見えてくるような演奏に圧倒された。
自主制作アルバム『I’m Missing You』を録音したのが2004年。「横濱ジャズプロムナード 2005」ジャズコンペティションでグランプリ受賞によって注目を集め、東京へ拠点を移し今日の活躍へとつながる。今回は9年目にして10枚目のCD。録音することができなかった3年間を除いて考えると、年1枚を超えてかなりの多作であることがわかるが、実はアルバムに収めきれないほどさらにたくさんのオリジナルを書いている。ともあれ、これまでピアノトリオでの録音をメインとしてきたが、10枚目にしての初めてのソロピアノアルバムを満を持して制作することとなった。
さまざまな個性を持った美しいメロディーが玉手箱のように詰め込まれているが、違和感なくシームレスに自然に大きなひとつの流れを生み出している。西山が追求してきたヨーロッパジャズ的な音に対して、今回の日本を意識させるような響きがバランスよく共存している。
ピアノの柔らかく優しく伸びのある響きが心地よく、また空間の豊かな広がりを感じさせる。このアルバムは仙川アヴェニューホールで、イタリアのピアノメーカーFAZIOLIのF228 Silverで収録された。西山はエンリコ・ピエラヌンツィの演奏を通じて、ファツィオリと出会う。なおハービー・ハンコックも可能な限りファツィオリの使用を希望するという。西山はトリオの録音でもファツィオリを使っているが、今回はこれまで以上に、優しく包まれるような音が引き立ち、ファツィオリは西山にとってもはや欠かせない存在となっているようだ。
2013年4月、佐藤 “ハチ” 恭彦(b)と池長一美(ds)とのトリオでの『Sympathy』をリリースし、また2012年にはトリオ以外の取り組みとして、馬場孝喜(g)との『Astrolabe』(Meantone)、安カ川大樹(b)との『El Cant Dels Ocells』(ダイキムジカ)があり、12月4日には、西山プロデュースによる東かおる&西山 瞳『Travels』(Apollo Sounds)もリリースされる。ノーマ・ウィンストンの参加作品を連想するような女性ヴォーカル/ヴォイスに、橋爪亮督のサックス、市野元彦のギターなどが絡む。活動の幅を着実に拡げていく西山が、今後見つけていく音に期待していきたい。(神野秀雄)

* 関連リンク;
http://www.jazztokyo.com/live_report/report565.html

西山 瞳 公式ウェブサイト
http://hitominishiyama.net

東かおる&西山 瞳『Travels』試聴
http://youtu.be/7RDTZhHmwoI

西山瞳トリオ/Sympathy 東かおる&西山 瞳 / Travels
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