#  1060

『Randy Weston Billy Harper/The Roots of the Blues』
text by 望月由美


EmArcy 0602537474233

1. Carnival (R.Weston)
2. Blues to Senegal (R.Weston)
3. Berkshire Blues (R.Weston)
4. Body and Soul(J.Green,E.Heyman,R.Sour)
5. Congolese Children Song (R.Weston)
6. If one could only see(B.Harper)
7. Blues to Africa (R.Weston)
8. How High the Moon (N.Hamilton,M.W.Lewis)
9. Cleanhead Blues (R.Weston)
10. Timbuktu (R.Weston)
11. Roots of the Nile (R.Weston)
12. Take the A Train(B.Strayhorn)
13. The Healers (R.Weston)
Bonus Track
14. African Lady (R.Weston)

Randy Weston(p except 6)
Billy Harper(ts except 11)

プロデューサー:Jean-Phillipe Allard
エンジニア:Jay Newland
録音:2013年2月8日、9日Avatar Studios、NY

 ランディ・ウエストンのピアノは途方もなく深い、そして生々しい。87歳にして熱情がたぎっている。
 ランディ・ウエストンの源泉はブルースとアフリカ。ランディの新作には究極のブルースそしてアフリカへの積年の思いがぎっしりとつまっている。
 ランディ・ウエストンの新作はビリー・ハーパー(ts)とのデュオ、タイトルの『The Roots of the Blues』はそのまま<Blues to Africa>と読み替えて聴くことができる。
 1974年、モントルーでの『Carnival』(Freedom)での共演からじつに 40年という長い友人関係を築いてきた二人の親密な雰囲気が落ち着きを与えてくれる。二人は1972年、ビリー・ハーパーがマックス・ローチ・グループの一員としてアフリカを訪れた際に知り合ったという。以来、二人は折りにふれて共演をしていて、昨年は京都の上加茂神社でデュオ・コンサートを行ったそうである。
 1曲目は二人のモントルーでのライヴでの記念すべき曲<Carnival>、ランディのリズムに圧倒される。ベース、ドラムなしでありながらランディの強烈なスイングは87歳にして今なお健在である。
 ランディ・ウエストンを知ったのはご多分にもれず『Little Niles』(UNITED ARTISTS、1958)であった。その後、あと追いでリヴァーサイドの諸作を聴き、そのユニークなピアノに興味を持ったが、決定的にのめりこんだのは『Portraits of Duke』、『Portraits of Thelonious』、『Self Portraits』(Verve、1989) のポートレイト3部作、とりわけ『Portraits of Thelonious』はアフリカン・リズムでモンクを処理したのに驚かされた記憶がある。
 (2)<Blues to Senegal>は1967年にダカールに滞在中、西アフリカ・セネガルの伝統的な太鼓、サバールの名手でセネガルの至宝といわれているドゥードゥー・ンジャイ・ローズの演奏を聴き、触発されて作曲した曲とのことである。ちなみにドゥードゥーの息子達ワガン、アブライ、ボガのンジャイ・ローズ3兄弟は日本に滞在して様々な場面でサバールの魅力を伝えているが、竹内直の「竹内直・サバールジャズ」にも参加し、父親ドゥードゥー・ンジャイ・ローズ直伝の技を披露している。ランディ・ウエストンの生み出すリズムにはランディならではの開放感が溢れている。
 その、ドライヴのかかったランディのノリは心なしか板橋文夫に似通ったものを感じる。以前、板橋もアフリカ・ツアーを行っているしリズムの爆ぜ方、音楽の原形、音そのものに共通したものを見出すことができる。
 この曲でのビリー・ハーパーの吹くブルースには真実味があり、どことなしにコルトレーンのブルース『Plays the Blues』(Atlantic)を連想させる心おだやかなブルースを吹く。
 ビリー・ハーパーは今年70歳、テキサスの出身。日本にもギル・エヴァンスやアート・ブレイキー等のグループで来日しているが、記憶に強く刻まれているのは1977年のマックス・ローチ・カルテットでの日本のステージ。ローチとレジー・ワークマンの前に直立不動の仁王立ち、全く身体を動かさずにひたすら音の群れを高速連写する姿にテキサス・テナーがオーバーラップしたこと思い出す。いま、そのときのライヴ盤『マックス・ローチ・ライヴ・イン・トーキョー』(Denon 1977)を聴きなおしてみるとビリーは単なる音の放射ではなく素晴らしいアイデアでローチと対峙していたことが分かり、この<Blues to Senegal>での演奏に対しても共感できる。
 ビリーは自作曲(6)<If one could only see>で無伴奏ソロを吹いている。郷愁を誘うようなモチーフを繰り返し、繰り返し吹く。パッドの響きを交えた音はストレートでおおらか。
 曲の大半はランディのアフリカを描いたものだが二人はこのアルバムで2曲のスタンダード(4)<Body and Soul>と(8)<How High the Moon>をとりあげている。どちらも3分程度の短い演奏で耳なじみのメロディーをストレートに弾いているが、こういった曲になるとランディのタッチにはモンクの影が見え隠れする。ランディはモンクとエリントンに深い尊敬の念をいだいていて、ここでもビリー・ストレイホーンの(12)<Take the A Train>をとりあげている。
 (7)<Blues to Africa>は以前ピアノ・ソロ・アルバム『Blues to Africa』(Freedom/Trio 1974)で演奏した曲のデュオでの再演。40年間のアフリカへの思いがつまっている。
 圧巻はアルバム唯一のランディのピアノ・ソロ(11)<Roots of the Nile>、ランディはピアノからアフリカの地底のとどろきを導き出してアフロ・アメリカンのうなりをあげる。(5)<Congolese Children Song>はコンゴの子供たちが遊んでいるような可愛い曲である。またランディは(9)<Cleanhead Blues>をエディ・ヴィンソン(as)に捧げている。かつて共演したことがあるのだそうだが、このアルバムにはこうしたランディのこれまでの様々な体験が描かれていて、あらためてランディの偉大な足跡をふりかえることができる。
 アルバム『The Roots of Blues』(EmArcy)には87年というランディの人生を描いた短編集といえ、ここでのランディとビリーの二人はブルースという絆でしっかりと結ばれている。 (2013年11月22日 望月由美)

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