#  1065

『小沼ようすけ&宮本貴奈/Voyage Double Rainbow』
text by 望月由美


JUMP WORLD/Boundee by SSNW
DDCZ−1911
2,400円(税別)

小沼ようすけ(g)
宮本貴奈(p)

1. Rainbow (宮本貴奈)
2. Flyway (小沼ようすけ)
3. After The Morning (J.Hicks)
4. Suffering (L.Danielsson)
5. Pent Up House (S.Rollins)
6. My One And Only Love(R.Mellin、G.Wood)
7. Ice Candle(小沼ようすけ)
8. For Fukushima(小沼ようすけ)
9. Sunshine Days(宮本貴奈)
10. Over The Rainbow(E.Y.Harburg、H.Arlen)

エグゼクティヴ・プロデューサー:三田晴夫
プロデューサー:小沼ようすけ、宮本貴奈、三田晴夫
エンジニア:Shinya Uno
収録:2013年7月5日、6日、8日at oasis studio home、東京

 ダブル・レインボウといえばジャズ・ファンの先ず頭に浮かぶのが山下洋輔トリオの40周年記念のリユニオン・ライヴ(DVD、Verve 2009.7)の演奏途中で日比谷野音の空にかかったダブル・レインボウ。
 本作『Voyage』のダブル・レインボウは小沼ようすけ(g)と宮本貴奈(p)によるデュオ・グループのユニット名。
 ギターとピアノのデュオではジム・ホールとビル・エヴァンスの『Undercurrent』(United Artists、1959)が極めつけだが、ここでの二人にはホール、エヴァンスのあの過激さ、テンションの高さはなく、ゆったりとしたテンポの中に柔らかな温もりをかもし出している。
 1曲目<レインボウ>に始まり10曲目<オーバー・ザ・レインボウ>で終わる。つまり初めと終わりでダブル・レインボウという洒落た選曲になっている。
 二人のオリジナルを中心にジャズの名曲やスタンダードを程よいバランスでならべ、聴き手にやすらぎを与えてくれるが、かといってイージー・リスニング的なアプローチとは違い、現代的なひねりのきいたニュアンスを伴った緩やかな流れの中で二人が音による対話を楽しんでいる様子が伝わってくる。
 (1)<Rainbow>と(9)<Sunshine Days>が宮本貴奈のオリジナル。わらべうたのような可愛いメロディーが軽やかなテンポにのってドラマティックに展開する。曖昧な部分とか難解なところがなく明快で爽やか。
 昨年の夏、『On My Way』(spice of life)で一躍注目を集め、日本での活動を本格的に始めた宮本貴奈であるが、これまでアメリカでの生活が長く、アトランタを拠点に活動してきているが、もともとは映画音楽を志してバークリー音大の映画音楽科とジャズ作曲科を卒業した人で映画音楽やサウンド・プロデューサーとしての実績も多く、宮本貴奈の曲には風景画のような景色が浮かび上がる。ピアノの一音一音にこめられた想いを絵に描いているようでリリカルなタッチは心が和む。
 小沼ようすけは2001年にファースト・アルバム『Nu Jazz』(Sony music)を発表し一躍ジャズ・シーンから注目を浴びたが、このときのメンバーだった金子雄太(org)、大槻“KALTA”英宣(ds)とはそれ以前の1999年から「アクアピット」として活動を続けていて、昨2013年にはこの3人でオルガン・トリオ作『Orange』(T5Jazz Records)を発表している。小沼ようすけは「アクアピット」ではかなりファンキーな局面もみせているが、本アルバム『Voyage』では弦の響きを大切にして洗練されたエレガンスなプレイを展開している。 (8)<For Fukushima>は小沼が東北大震災に思いをはせて作曲したのだそうだが、小沼はiTunesで被災地へのチャリティー活動も行っているそうだ。
 二人のオリジナルのほかに二人はジョン・ヒックス(p)、ラーシュ・ダニエルソン(b)、ソニー・ロリンズ(ts)といったジャズ・ミュージシャンの曲を取り上げている。(5)<Pent Up House>は実質ブラウン=ローチ・クインテットの『Sony Rollins plus Four』(Prestige、1956)で演奏されたロリンズの曲であるが、オリジナルの曲想を大事にしながらも気負いがなく、自然な音の流れをつくっているので原曲の持つニュアンスを懐かしむこともできる。
 二人の引き出しの多さは(6)<My One And Only Love>や(10)<Over The Rainbow>といったスタンダード曲でも本来、曲の持っている素晴らしさの上にさりげなく自らの気持ちを重ね合わせて音を埋めてゆくあたりにデュオ・ユニット「Double Rainbow」のオリジナリティーが発揮されている。
 「Double Rainbow 小沼ようすけ×宮本貴奈」は本アルバム『Voyage』リリース・ライヴを昨年の10月から今年の2月まで全国各地で展開中である。(2014年1月 望月由美)

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