# 1073
『Billy Harper/Blueprints of Jazz Vol.2〜Amazing Grace』
text by 稲岡邦弥
Talking House 2008 |
Billy Harper(ts,vo)
Amiri Baraka(spoken word)
Francesca Tanksley(p)
Aaron Scott(ds, perc)
Keyon Harrold(tp,F-hrn)
Charles McNeal(as)
Clarence Seay(b)
Louie Spears(b)
1. Africa Revisited
2. Knowledge of Self
3. Another Kind of Thoroughbred
4. Thoughts and Slow Actions
5. Time and Time Again
6. Who Here Can Judge Our Fates?
7. Amazing Grace
8. Cast the First Stone? (...If You Yourself Have No Sins)
9. Oh...If Only
Recorded August 8-10, 2006
Produced by Marc Weibel and Stephen Smith
アミリ・バラカをゲストに迎えたビリー・ハーパーの黒く熱い“男ジャズ”
2006年の録音、2008年のリリースだが、日本では紹介された形跡もなく、アミリ・バラカの追悼を期にあえて採り上げてみたい。ビリー・ハーパーが別項の追悼で語っているように、制作・発売元のTalking Houseが発売まもなく破綻してしまったために、充分なプロモーションや流通が行われる前に姿を消してしまったのだろう。しかし、このアルバムはビリー・ハーパーとともにアミリ・バラカの真髄を捉えた傑作で、ビリーに限っても『カプラ・ブラック』(Strata East 1973) に並ぶ彼の代表作になり得る一作と言っても過言ではないと思う。
予兆的なツイン・ベースのイントロに導かれて始まるオープナーは<Africa Revisited>。コルトレーンのインパルス第1作『アフリカ/ブラス』(1961) の1曲目<アフリカ>へのオマージュである。ハーパーのレギュラー・カルテットにベースとトランペット、それにバラカの加わった7人編成。フランチェスカ・タンクスリーのパーカッシヴなブロック・コード、アーロン・スコットのドラムスが加わり、ハーパーのテナーとキーヨン・ハロルドのトランペットがテーマを奏するとそこは完全なコルトレーン/ハーパーの世界。ここぞというタイミングでバラカが入ってくるが、そのタイミングといい歯切れの良いリズムといい、まさに“verbal jazz musician”(言葉を使うジャズ・ミュージシャン)の面目躍如。ときには詠唱に近い場面も。前号(#194)の表紙に掲載された足を踏ん張って言葉を演奏するバラカの姿が眼前に甦る。トランペットのハロルドは、ハーパーの生徒で20代の若者だというが、刺激的なサウンドでバンドを煽り立てる。コルトレーンのスピリットを継ぐ者として自他ともに認めるハーパーが16分を超える長尺の演奏でコルトレーンのアフリカに対する情念を現代に甦らせる。衰えることを知らないハーパーの黒く熱い咆哮があって初めて実現した世界である。続く<Knowledge of Self>も同じく7人編成による演奏。9分にわたってバラカがジャズの歴史について語る。端正に始まった語りがバンドの白熱化と共にテンポを増し、バンドと激しく交錯する。相変わらずハーパーとハロルドが熱い。バラカが参加したもう1曲はアルバムの最後を飾るに相応しいアップ・テンポのナンバー。バラカは、「ジャズは何処から来たのだろうか?」とテーマを投げかけ、アフリカの打楽器に発するジャズ・ドラムの流れについて早口で語る。
サブ・タイトルの<アメイジング・グレース>、この良く知られた賛美歌をハーパーはヴォカリゼーションとテナーの一人二役で見事にジャズ化する。幼友達の葬式で請われてテナーで献呈したがやはりシンガーとしての資質を生かすべきと考え、アレンジを考え抜いたという。教会のシンガーでもあったハーバーの美声とテナーの絡みが素晴らしい。ヴォイスを追求する彼はこの2月、NYで24声による特別プロジェクトを開催、ライヴ収録をするためにFacebookを通じてファンド・レイジング(制作資金の募集)を呼びかけていた。8曲目の「罪を犯したことのない者がまず(この女に)石を投げなさい」は福音書に登場するイエスの教えのひとつをタイトルに持つが、ハーパーの演奏に独特のスピリチャリティを色濃く表出したもので、コルトレーンの世界にそのまま通底する内容である。
ロックの成功で余裕を得たレーベルの資金援助があっただけに、アミリ・バラカをゲストに迎え、バンド編成も拡大、オーバーダビングを駆使するなど久しぶりにビリー・ハーパーが思いの丈を詰め込んだアルバム。どこを切ってもハーパーの匂いにむせかえり、久しぶりに黒く熱い、そして時にスピリチュアルな“男ジャズ”を楽しんだ。神田の東京TUCでチャールズ・トリヴァー・ビッグバンド、丸の内のコットンクラブでクッカーズ、何年かおきにビリー・ハーパーのナマを聴く機会があったが、このアルバムでとどめを刺された感じである。(稲岡邦弥)
関連ページ;
http://www.jazztokyo.com/column/reflection/v32_index.html
追悼特集
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#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
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今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
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#10 Contents
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