#  1074

『山本邦山+菊地雅章/銀界』
text by 稲岡邦弥


Philips/ユニバーサル・ミュージック

山本邦山(尺八)
菊地雅章 (p)
ゲイリー・ピーコック(b)
村上 寛 (ds)

1. 序
2. 銀界
3. 竜安寺の石庭
4. 驟雨
5. 沢之瀬
6. 終

1970年、邦山師33歳の時の作品である。ジャズとの共演作の代表作となり、国際的にも評価されるクラシックとなった。尺八に限らず、伝統楽器との組合わせでこのアルバムを凌ぐ作品は出ていない。
1958年、京都外大を卒業した邦山師(1937~) は、パリの音楽祭出演とそれに続く欧州と中近東への巡演、ニューヨークでのレコーディングやニューポート・ジャズ・フェスへの出演など邦楽以外でのさまざまな経験を積んだ。邦楽でも作曲や技能で一位の賞を受けるなど、群を抜く存在としてあった。
この作品は師のフィリップス専属第一作。芸大附属高校からバークリーを中退した菊地雅章(1939~)もフィリップス専属となり、意気込む邦山氏から作曲の依頼を受け、秘かに意を決したようだ。過去を語りたがらない菊地はこのアルバムについても黙して語らないが、ドラムスの村上寛によれば、作曲を前に菊地は尺八について独特のモードなどいろいろ勉強を重ねていたという。日本人の心情に通じ内省的な演奏を身上とするゲイリー・ピーコックが滞日中だったことも幸いした(ゲイリーは、失恋の痛手を癒すために来日、禅の修行中だったともいわれる)。村上は、邦山師と同年代で、感性に富むドラマーとして録音当時菊地のグループに在籍していた。
作品は6曲からなる組曲。初版はLPレコードだがCD化されて組曲を通して聴けるようになり、空気感の喪失という犠牲を強いられはしたものの盤面を返すという感興を殺がれることがなくなった。序(プロローグ)と終(エピローグ)が挟む4曲はすべて10分前後の長尺で、それぞれ<銀界>、<龍安寺の石庭>、<驟雨>、<沢の瀬>に象徴される心的情景をたっぷりと描き尽くす。このアルバムの成功は心象風景とはいえ、4つの場面を設定したことにある。京の雪景色と思われる<銀界>と<竜安寺の石庭>は和を想定した“静”の世界、後半の2曲、強いにわか雨を意味する<驟雨>(しゅうう)と沢の急流を意味する<沢の瀬>はジャジーな“動”の世界。もちろん、“静”の世界にも“動”があり、“動”の世界にも“静”があることはいうまでもない。リズムをオープンにした“静”の世界では、自由に動くトリオを背景に正調尺八がメロディやカデンツァを朗々と歌い切る。アブストラクトなトリオの動きと堂々とした尺八のコントラストが際立って面白い。後半2曲“動”の世界では、トリオがジャズのリズムを提示、その上で尺八がメロディを展開していく。いわゆるジャズでいう「ワンホーン・カルテット」に類似したセッティングである。<驟雨>では、浮世絵・東海道五十三次、通り雨に人々が逃げ惑う「庄野 白雨」を彷彿させるユニークな音の動きを見せ、ランニング・ベースがグイグイ迫るなかは完全な4ビート・ジャズ。<沢の瀬>ではついに尺八がシンコペーションやトリル、ノイジーなサウンドなどジャズのホーンライクな奏法を見せる。<終>ではピアノとベースが<序>と同じリズム・パターンを提示、終わりであると同時に始まりでもある、円環を暗示させて終わる。邦山師の豊かな音楽性と傑出した演奏能力を100%開示することに成功した菊地の作曲とリーダーシップ、それに応えたピーコックと村上、この4者が聴かせる密度の濃い演奏にひととき我を忘れて没入してしまった。(稲岡邦弥)

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.