#  1075

『山本邦山/竹の組曲』
text by 稲岡邦弥


BMG BVCJ-37526 \2,200(税抜)

山本邦山(尺八)
前田憲男 (p)
荒川康男(b)
猪俣 猛 (ds)

1. インプロヴィゼイション その1
2. インプロヴィゼイション その2

録音:
1975年9月19日 東京カテドラル・マリア大聖堂
「しおん会」のためのチャリティ・コンサートのライヴ録音

名作の誉れ高い『銀界』は、まさに一期一会のセッションであった。『銀界』の作曲と演奏に全精力を傾けた菊地雅章はゲイリー・ピーコックのあとを追うように、再会セッションを受ける間もなく73年にNYに移住してしまう。『銀界』で自信を得た邦山師は、ファンの要望にも応えるべくいくつかのセッションを試みる。そんななかで自身の創作意欲とチャレンジ精神に火を点けたのがこのトリオであった。前田憲男は1934年生まれ。作編曲家/ピアニストとして幅広い活動を展開していく。荒川康男は39年生まれ。バークリー卒の名手として知られ、猪俣猛は36年生まれ、NYで修行した逸材。邦山師は37年生まれだからほとんど同年代の、しかも全員関西出身の4者が顔を揃えたことになる。ちなみにこの3者は現在でも「WE3」として活躍しているので、40年以上の団結ということになる。
邦山師はこのトリオと4回のセッションを経て、ライヴ録音に臨んだ。会場は、丹下健三の手になる目白の東京カテドラル・聖マリア大聖堂である。

「竹の組曲」の“竹”は、いうまでもなく“尺八”を指す。「組曲」とうたってはいるものの、アルバムには当日披露された即興演奏の2曲が収録されている。
2曲とも似たような流れで、オープン・リズムからスリリングなギャロップのイン・テンポに変わりワン・ホーン・ジャズの醍醐味を聴かせてクライマックスへ。まずは、邦山師の透明で伸びやかな尺八がゆっくりしたメロディを40m高の大聖堂の虚空へと放つ。前田のピアノが同じモードで継ぐ。裏で猪俣の不思議な打音が打たれる。荒川のベースがアルコからピチカートへ強く低く目まぐるしく動き回る。オープン・リズムの完全なインプロヴィゼーション。アブストラクトな雅といった趣きが醸し出される。大聖堂に轟くドラムの大仰なソロの後、戻ってきた尺八の裏でうごめいていたトリオから猪俣のドラムが突然抜け出し、猛烈な勢いで駆け出す。ピアノとベースも伴走する。仕掛けられた尺八も疾駆しながら舞いに舞う。テンポを落としながらイン・テンポのままディクレッシェンド。あっけにとられた聴衆を尻目に2曲目へ。ドラムのイントロに誘い出される邦山師の尺八。ここでも<その1>と似たような展開をみせるが、ほとんど全編で尺八が活躍する。オープンの時は自分の土俵にトリオを呼び込む尺八が、イン・テンポになるとトリオに乗らざるを得ない。ジャズの世界に引きずり込まれた邦山師が敢然とトリオに対峙する。雅な和の世界から一転バップの世界での丁々発止のやりとりとなる。一歩も引かぬ邦山師のさばきは見事という他ない。その超人的なタンギングとフィンガリングにチャーリー・パーカーのアルトが被ってみえた。『銀界』と対極にあり、『銀界』に比肩する傑作だろう。(稲岡邦弥)

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