#  1078

『Pat Metheny Unity Group / Kin (←→)』
text by 神野秀雄


Nonesuch /ワーナー ミュージック ジャパン
WPCR-15523 \2,552(税別)

Pat Metheny: electric and acoustic guitars, guitar synth, electronics, synths, orchestrionics
Chris Potter: tenor sax, bass clarinet, soprano sax, clarinet, alto flute, bass flute (ts, bcl, ss, cl,
Antonio Sanchez: drums and cajon
Ben Williams: acoustic and electric basses
Giulio Carmassi: piano, trumpet, trombone, french horn, cello, vibes, clarinet, flute, recorder, alto sax, wurlitzer, whistling and vocals

1. On Day One
2. Rise Up
3. Adagia
4. Sign of the Season
5. Kin (←→)
6. Born
7. Genealogy
8. We Go On
9. Kqu

Music composed and arranged by Pat Metheny
Produced by Pat Metheny
Associate producer: Steve Rodby
Recorded and mixed by Pete Karam
Recorded June 2013 at MSR Sounds, New York NY
Assistant Engineer: Fred Sladkey
Mastered by Ted Jensen at Sterling Sound, New York NY

 「一作目が、4人のミュージシャンが録音スタジオで演奏する姿を捉えた白黒ドキュメンタリーフィルムだとすれば、新しいアルバムは、バンドの可能性を捉えたTechnicolor3D IMAX版だ。しかしバンドのハードコアの部分は常にその中心に存在し続けている」とパットは語る。2012年にクリス、ベン、アントニオとパット・メセニー・ユニティ・バンドを結成。サックスを含むバンドは『80/81』(ECM1180/81)以来、30数年ぶり。『Unity Band』(Nonesuch)でグラミー受賞、2013年には来日公演を行う。120回に及ぶワールドツアーの終盤、パットはこのバンドで特別なメンバーと作り上げたエネルギーとフォーカスと強さを終わらせたくないと思い、さらに「unity」を拡張したいと思い始める。それにはマルチインストルメンタル・プレーヤーが必要になる。時を同じくして、ウィル・リー(b)の紹介で理想のプレーヤー、ジュリオ・カルマッシに出会い、パットが出した答えがパット・メセニー・ユニティ・グループだ。
 ジュリオの演奏を2013年12月にコットンクラブ東京でのウィル・リー・ファミリーで予期せず聴くことができたが、器用なだけではなく、キーボード、テナーサックス、トランペットといずれの楽器でも深い表現力と音楽性を発揮する。ジュリオが参加したユニティ・グループの成功に個人的な確信を感じた。
 新作を聴いてみて、その確信は間違っていなかった。ユニティ・バンドがカルテットとして持っていた、ストレートアヘッドなパワーとグルーヴ、自由度、濃密なインタープレイは損なわれることなく、むしろその勢いを増している。ジュリオの参加で色彩感と奥行きが大きく増した。ジュリオにはパットのサウンド全般に対する深い理解と洞察があり、強く前面に出るわけではないが、穏やかに的確に音楽を彩っていく。そしてクインテットの一員としての対等な距離感も維持している。また、クリスが多数の木管楽器を持ち込んでいることも曲ごとの個性を強調している。ベンはアルコでも演奏し、アントニオはカホンも叩く。ジュリオの美しいピアノも聴こえてくるが控えめで伴奏者としての位置に徹し、ライル・メイズの存在感とは違うものとなっていて、ギターとサックスが全面に出ていることと相まって、パット・メセニー・グループ(PMG)との違いを大きく印象づける。パットはPMGも継続するが、今はこの魅力的なグループに専念したいと言う。
 オーケストリオンも使用していて、サウンド的な魅力を増している一方、バンドとの間には存在感の違いがある。バンドとしての柔軟性と自由度にどう影響するのかは、ツアーを待ちたいと思う。ユニティ・バンドでは数曲に限定してオーケストリオンを使っていたので、ユニティ・グループでもそうなのかも知れない。
 「パットは『Bright Size Life』(ECM1073)から『Secret Story』(Nonesuch)まで、パット・メセニー・グループからオーケストリオンまでを表現できる単一なプラットホームを手にすることができ、あらゆる表現が可能になった」と語っているが、その表現に偽りはなく、パットが作編曲者として、ギタリストとして大きく羽を伸ばし、今までのパットの魅力が集約されたアルバムだ。
 タイトルの『KIN(←→)』について。kinは、血縁、親族という意味で、現在のパットは、パット以前の偉大なミュージシャンから以後のミュージシャンと音楽的につながっていることを表している。(←→)は発音しないシンボルだがパット以前の過去と未来を表すという。今年、還暦を迎えるパット。2013年にダウンビート誌のHall of Fameを受賞したが、ギタリストとしては、チャーリー・クリスチャン、ジャンゴ・ラインハルト、ウェス・モンゴメリーに次ぐ4人目。今年、敬愛するジム・ホールが亡くなった。パットも時間の流れにある自分とその音楽を振り返り、次の世代にも思いを馳せるタイミングにあると思う。しかし、このアルバムは集大成ともなりうるものの、自身のキャリアのまとめではなく、完全な表現のプラットホームを手にして、新たな出発点に立ち、まだ先が見えない音楽の荒野にわくわくしながら歩み出すという印象を強く受けた。すでにユニティ・グループは、アメリカ、カナダからヨーロッパへのツアーを開始している。ライブで真価を発揮するこのグループを日本公演で聴くことが今から楽しみでならない。そして、ワールドツアーで音楽が育ち、生み出される次のアルバムがもう待ち遠しい。(神野秀雄)

【JT関連リンク】
Pat Metheny Unity Band at Blue Note Tokyo (2013年5月23日)
http://www.jazztokyo.com/live_report/report537.html
Will Lee’s Family at Cotton Club Tokyo (2013年12月4日)
http://www.jazztokyo.com/live_report/report622.html

【関連リンク】
パット・メセニー 公式ウェブサイト
http://www.patmetheny.com/
Pat Metheny Unity Group / Kin (←→) Preview
http://youtu.be/cgUxjhBHN3g

Unity Band (Nonesuch)
ワーナーミュージック WPCR-14524
Bright Size Life (ECM1076)
80/81 (ECM1180/81) Secret Story (Nonesuch)

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