# 1081
『ヒントン・バトル/ミーツ・カウント・ベイシー・オーケストラ』
text by 望月由美
Eighty Eights EECD-5001 \1,500 |
Hinton Battle(vo)
Count Basie Orchestra:
F.Basile(bs) D.Miller(ts,director) D.Lowrence(ts) M.Mcdonald(as) C.Guyton(as)
C.Banks(tb) A.Walker(tb) D.Keim(tb) M.Williams(bass tb) S.Barnhart(tp,lerder)
M.Williams(lead tp)B.Harris(tp) S.Edmonds(tp) B.Miles(ds) M.Mclaurine(b)
W.Matthews(g) B.Floyd(p)
1. A列車で行こう(B.Strayhorn)
2. ソフィスティケイテッド・レディー(D.Ellington, M.Parish)
3. スイングしなけりや意味がない(D.Ellington, I.Mills)
4. クリスマス・ソング(M.Torme, R.Wells)
Executive producer:Tetsuo Takahira、Masataka Izumi(Yoshimoto Creative Agency Co.Ltd.)
Producers:Koichi Matsumoto and Mitsuru Aoki(Yoshimoto Creative Agency Co.Ltd.)
Produced by Yasohachi“88”Itoh(Eighty Eight Inc.)、
Co-Produced by Shoji“Swifty”Sugawara
Engineer:Yoshihiro Suzuki(Sony Music Studios Tokyo)
Engineer for Vocal:Akihiro Nishimura(Avatar Studios New York)
Mastering Engineer:Koji“C-chan”Suzuki(Sony Music Studios Tokyo)
Recorded at Sony Music Studios Tokyo on September 18,2013and Avatar Studios New York on November 2&3,2013
ビッグ・バンドのアルバムを聴く時は出来る限り大きい音で聴いた方がよい、という定説どおり大音量で聴くと最初から最後までベイシー・サウンドのシャワーをふんだんに浴びることが出来る。
昨年の秋、ベイシー・オーケストラが来日した際に録音したもので1曲をのぞいて全曲がデューク・エリントン・オーケストラのレパートリーとなっていてベイシー・プレイズ・エリントンという選曲が珍しいし聞き物。
ヴォーカルのヒントン・バトルは昨年の12月から今年の2月まで大阪の「なんばグランド花月」で自ら演出・振り付け・台本・主演をつとめるショー「アメリカン・バラエティ・バン」の公演を行ったが、本アルバムはこのタイミングに合わせて制作されリリースされたもの。
一曲目(1)<A列車で行こう>からブッチ・マイルス(ds)のリム・ショットがバンド全体を鼓舞する。全編にわたってブッチ・マイルスのドラムが快適にスイング、ブッチ・マイルスの参加によってオーケストラ全体が大きくドライブしている。
ヒントン・バトルもベイシー・オーケストラにプッシュされて朗々と歌っている。発声が明瞭でストレート、スケールが大きい。これがブロードウェーのミュージカルでトニー賞をとった声かと納得してしまう。
ヒントン・バトルはトニー賞を3度もとったブロードウェーのトップ・スターでミュージカル「スイングしなけりゃ意味がない」でエリントン・ナンバーを唄っていたことから、エリントンの楽曲には思い入れが深いのかもしれない。
勿論、ベイシー・オーケストラも1961年には『ファースト・タイム!』(Sony)でエリントン・オーケストラと共演、左にベイシー・オーケストラ、右にエリントン・オーケストラという華々しい豪華なバトルを録音したこともあり、ビッグ・バンド界の両横綱は意外にもベスト・マッチングしていたし、やはり老舗はなにをやっても様になるものである。
ここでもエリントンのおもかげを残しながらもベイシー・サウンドが炸裂する。
ベイシー・オーケストラといえばジミー・ラッシング(vo)やジョー・ウイリアムス(vo)などブルース・シンガーとの共演がすぐ頭に浮かぶがフランク・シナトラやトニー・ベネット(vo)、サミー・デイヴィス・ジュニアといった人気シンガーとの共演盤も残しているし、本アルバムでもミュージカルのトップ・スター、ヒントン・バトルの魅力を柔軟にうまく引き出している。
そもそも、ヒントン・バトルとベイシー・オーケストラという夢の共演を実現したのにはベイシー・オーケストラ〜ジャズ喫茶「一関ベイシー」〜エイテイ・エイツという強固なトライアングルが形成されていたのではと推察する。「一関ベイシー」の菅原昭二さんのベイシーへの思い入れは尋常ではない。1980年の春、本物のベイシー御大とベイシー・バンドのメンバーが「一関ベイシー」を訪れて以来現在にいたるまでずっと歴代のベイシー・オーケストラとの親交を深めてきているので本アルバムの実現に関しても菅原マジックが働いているものと思われる。また、プロデューサーの伊藤“88”八十八さんは日本フォノグラムでのレーベル「イースト・ウインド」で渡辺貞夫(as)や菊地雅章(p)、日野皓正(tp)、ザ・グレイト・ジャズ・トリオなど、さらにソニー・ミュージックではケイコ・リー(vo)やザ・スクエア、ハンク・ジョーンズ(p)などを手がけ、近年独立し「エイティ・エイト・インク」を立ち上げて寺久保エレナ(as)やトーマス・エンコ(p)、ボブ・ジェームス(p)ケニー・バロン(p)等の作品を制作し「ジャズジャパン」誌の2013年のJAZZ JAPAN AWARD 2013 ではアルバム・オブ・ザ・イヤー高音質ソフト部門賞を受賞するなど日本のジャズ・シーンを脈々と牽引し続けている。菅原さんとは学生時代からの友人で、菅原さんのLP講演会などではいつのまにか伊藤さんがLP盤の沢山入ったカバンを抱えてステージに現れるという不思議な関係である。また2005年にはベイシー・オーケストラの仙台公演のライヴ盤『Basie is Back』(Eighty-Eights)をお二人で共同プロデュースしている間柄でもあり、今回の共同作業も手馴れたもの、ベイシー・バンドの公演日程が終わった翌日にメンバーをソニー・ミュージックのスタジオに招きいれ、一日でレコーディングを行うという離れ業を行い本アルバムのベースを創ったのである。
歴代のベイシー・オーケストラはニール・ヘフティやクインシー・ジョーンズなど著名なアレンジャーが編曲を提供していたが、本アルバムは日本のアレンジャーが編曲を行っている点も注目したい。笹路正徳が編曲した(3)<スイングしなけりや意味がない>をのぞき全曲を野口久和が編曲している。野口久和は云うまでもなく故・野口久光さんのご子息、自己のオーケストラ「野口久和ザ・ビッグ・バンド」を率いて注目されている。野口久光さんと菅原さんは一緒にベイシーのお墓参りにも行かれたり、野口さんが亡くなられたあと、その膨大なレコード・コレクションを菅原さんが保管されるなど大変親しい間柄で、ご子息の久和さんとも親しく、ベイシーの輪はここでもつながっているようだ。
本アルバム『ヒントン・バトル/ミーツ・カウント・ベイシー・オーケストラ』(Eighty Eights)は全4曲トータルで16分という長さも特長で、オーケストラのビッグ・サウンドを聴くには丁度よい長さである。CDの時代になって、いつの間にか60分から70分が標準になってしまった感があるが、コンサートなら未だしも家で精神を集中して鑑賞するには20分程度が丁度よい長さではないかと常々思っている。勿論、中には70分延々とフリー・ブローイングをくりひろげる面白いアルバムもあるが、なんの脈絡もない曲を10曲、15曲と曲を並べられても聴く方はしんどい。
本アルバムはそういった傾向に釘を刺すような潔さがある。その点LPは片面20分で一息つけるし、ジャケットを眺めてリフレッシュすることも出来て丁度よい長さだった。今LPの良さが再認識されて名盤の復刻だけでなく新録もLPで出るようになってきているのはありがたい。本アルバムはCDにもA面、B面があったらいいなあ、と云う、ないものねだりのノスタルジーを誘ってくれる作品でもある。
新聞報道によると吉本興業は、今年の秋には東京・大阪・ニューヨークにダンス・スクール「ヒントン・バトル・ダンス・アカデミー」を開校し、2015年秋にはブロードウェーやアジア各国での海外公演を開催する計画を発表している。今年はヒントン・バトルが大きくクローズアップされる年になるかもしれない。(望月由美)
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