#  1088

『Jon Irabagon/It Takes All Kinds』
text by 望月由美


Irabagast Records
jazz Werkstatt 139

Jon Irabagon (ts)
Mark Helias (b)
Barry Altschul (ds,per)

1.Wherewithhal(J.Irabagon)
2.Vestiges(J.Irabagon)
3.Quintessential Kitten(J.Irabagon)
4.Elusive(J.Irabagon)
5.Cutting Corners(J.Irabagon)
6.Unconditional(J.Irabagon)
7.Sunrise(J.Irabagon)
8.Pause and Flip(J.Irabagon)

プロデユサー:Ulli Blobel &Jon Irabagon
エンジニア:Jens Libewirth
録音:2013年6月8日 at the jazzwerkstatt Peitz No.50 Festival、Germany

 例によって67分36秒延々と大ブローをくりひろげる。全曲ジョン・イラバゴンの作曲である。同じサックス、ベース、ドラムというピアノレス・トリオ編成の前作『FOXY』(2010、HOT CAP)では78分強吹きっぱなしであったが、今回はライヴということもあって聴衆の拍手によって曲の間は区切られているものの組曲のような連続性をもった展開がくりひろげられていてFOXYのライヴ・ヴァージョンともいえる。
 今回、FOXYとはベース奏者がマーク・ヘライアスに替わっているがドラムは前作と同じバリー・アルトシュル。
 FOXY以来ジョン・イラバゴンはバリー・アルトシュルとコンサート・ツアーを行うなど折りにふれてコンビを継続していてきている。2012年にはバリー・アルトシュルがリーダーとなったアルバム『3DOM Factor』(TUM)でも二人は共演している。二人のコンビネーションは固く、ジョン・イラバゴンはバリー・アルトシュルの叩きだすパルスに身をまかせてひたすらテナー・サックスの極限に挑戦することを楽しんでいる様子が伝わってくる。
 ジョン・イラバゴンを聴いていると、ジャズと知り合い、ジャズを無心に聴いていたころの自分に連れ戻してくれる。ジョン・イラバゴンはジャズの歴史と伝統を回想させてくれる数少ないミュージシャンの一人である。

 ジョン・イラバゴンの基本はフリーな即興であるがベン・ウエブスター(ts)のようなゆらぎもあり、長尺でも寛いで聴けるところがいい。

   1曲目<WHEREWITHAL>の冒頭、いきなりジョン・イラバゴンのテナーがカット・インで出てくる、気持ちがいい。前作『FOXY』もカット・インのスタート。ジョンはカット・インが好きなのだろうか。
 圧巻は(3)<QUINTESSENTIAL KITTEN>の冒頭のジョン・イラバゴンのカデンツア。ときどきノン・ブレスを交えながらロリンズからアイラーのはざまを往き来するソロ・パフォーマンスを3分ほど繰りひろげるが、バップの古典と錯覚するようなメロディーが間断なく現われる。そのあと、二人が加わり3人はそれぞれ三角形の頂点にたって即興の妙を繰りひろげる。伝統に根付くイラバゴンには感心する。
 バリー・アルトシュル(ds)はチック・コリア(p)のトリオやアンソニー・ブラクストン(reds)、「サークル」等で知られるが1943年生まれで71歳、まだまだ元気である。SABU豊住芳三郎も同じ43年生まれであるが、この年代は元気がいい。(6)<UNCONDITIONAL>でローチのようなスネア使いからハイハットだけのソロなど3分強の長いドラム・ソロを熱演、普段あまり聴くことがなかったバリー・アルトシュルの妙技が聴ける。(7)<SUNRISE>ではマーク・ヘライアス(b)がフィーチュアーされる。マークはAACMのひと達との共演歴が多い。しなやかだけれども芯の強い弦の響きで一音一音が立っている。
 最後の(8)<PAUSE AND FLIP>はバド・パウエルの<ウン・ポコ・ロコ>を想わせるテーマからイラバゴンが痛快なノリで大暴れ、フリー・バップとでも形容したくなるこのトリオの強靭さが発揮される。
 ソニー・ロリンズやジョン・コルトレーンなどテナー・サックスがジャズの王道だった時代があったがいつの間にか途絶えて久しい。こんな中にジョン・イラバゴンはそんな輝かしい時代を復元してくれるのではないかと期待する。(望月由美) 

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