#  1090

『チョン・ミョンフン/ピアノ・アルバム』
text by 丘山万里子


ECM 2342NS

チョン・ミョンフン(pf)

1.ドビュッシー:月の光
2.ショパン:夜想曲変ニ長調作品27の2
3.ベートーヴェン:エリーゼのために
4.チャイコフスキー:秋の歌
5.シューベルト:即興曲変ホ長調D899/2
6.シューマン:トロイメライ
7.シューマン:アラベスク
8.シューベルト:即興曲変ト長調D899/3
9.ショパン:夜想曲嬰ハ短調遺作
10.モーツァルト:キラキラ星変奏曲

録音:2013年7月 フェニーチェ劇場(ヴェニス)
エンジニア:ライナー・マイラード
プロデューサー:マンフレート・アイヒャー

チョン一家の幸福なスナップ写真を見るような親密なアルバム

1974年チャイコフスキー・コンクールピアノ部門で第2位入賞した実力の持ち主、ミョンフンの初のピアノ・ソロ録音で、ECMにとっても初の名曲集である。今日、世界的指揮者として多忙なミョンフンだが、ECMで働く次男の発案で、二人の孫娘や家族たちへの個人的なメッセージとしてこのアルバムを作ったとのこと。したがって選ばれた曲はどれも誰もが耳にしたことのある名曲ばかりで、それぞれにミョンフンの想いがこもる。「月の光」は月の名を持つ孫娘に、「秋の歌」はチャイコフスキー・コンクールでの思い出として、シューベルト「即興曲変ト長調」は長男の結婚式のときに弾いたもの、ショパンの「夜想曲嬰ハ短調」は音楽上、大きな影響を受けている姉のヴァイオリニスト、キョンファへ捧げられている。
これらの名曲と出会った時々のミョンフンの素直な喜びとともに、チョン一家の幸福なスナップ写真を見るような親密なアルバムに仕上がっている。
ゆったりとしたテンポで弾かれる甘やかな「月の光」は孫娘への愛情が微笑ましく伝わる一品で、どこまでも優しい。ピアノ初心者なら一度は弾きたいと思う「エリーゼのために」は、曲調のちょっとした変化を巧みに奏出、お手本のような演奏だ。「秋の歌」の哀愁を帯びた旋律、そっと心に寄り添う語り口にはロシア特有の抒情が香る。シューベルトの「即興曲」は、珠を転がすような「変ホ長調」と柔らかなハーモニーの上をたゆたう歌の美しい「変ト長調」の2曲で、どちらもピアノ学習者が愛奏する作品。シューマン2曲もあたたかくこまやかな音調がインティメートな会話を紡ぐ。ショパンは情感豊かな「変ニ長調」、繊細にして優美な「嬰ハ短調」、いずれも澄んだリリシズムが匂い立つ。最後のモーツァルトは七色の金平糖がガラス瓶のなかで踊り回るような愉悦に満ちる。
あまりにポピュラーな作品ばかりで、かえって難しいのでは?と思うが、さらりと屈託なく弾き上げて、いかにも家族へのプレゼント風なほのぼの感がある。私家版を分けてもらったような気分になる1枚である。(丘山万里子)

*関連リンク
http://www.jazztokyo.com/live_report/report562.html
http://www.jazztokyo.com/live_report/report588.html
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