# 1091
『Billy Hart Quartet/One Is The Other』
text by 多田雅範
ECM2335 |
Mark Turner (tenor saxophone)
Ethan Iverson (piano)
Ben Street (double bass)
Billy Hart (drums)
1.Lennie Groove
2.Maraschino
3.Teule's Redemption
4.Amethyst
5.Yard
6.Sonnet for Stevie
7.Some Enchanted Evening
8.Big Trees
Recorded @Avatar Studios, NY, April & May 2013
Engineer: James A. Farber
Produced by Manfred Eicher
アイヒャーが考える現代的クール・ジャズの上質な完成
よもや73さい老兵ビリー・ハートの破顔一笑で突き崩すタイム感覚での快活のリズムワークに、このトリオのほとんどが支えられているのであった!と、句読点なしに言い切ったこのあいだのアーロン・パークス・トリオ@コットンクラブ(http://www.jazztokyo.com/live_report/report646.html)、の興奮がよみがえってきます。
このイーサン・アイヴァーソン、マーク・ターナーという現代ジャズのスターを従えたビリー・ハート・カルテットの『All Our Reasons』(ECM2248)2011に続く、ECM第2弾。
サックスを手にする若者のほとんどが参照点とする現代ジャズの皇帝マーク・ターナーがいるのに何故ジイさんドラマーをリーダーしたのだろう、それはおそらく契約名義の問題とか年功序列なのではないかと浅はかな予断をしたわたしを恥じる。
2003年にマーク・ターナーと双頭バンド「イーサン・アイヴァーソン=マーク・ターナー・カルテット」を結成して、突然「ビリー・ハート・カルテット」に名前を変えたのは結成してから1週間後、ビリー・ハートからアイヴァーソンに地元のモントクレア(ニュージャージー州)でギグをやってくれって連絡が入り、マークと相談してビリーにこのバンドをあげた方がうまくいくだろうということになったとのこと。
実際、皇帝ターナーはサイドメンもしくは双頭での名演ばかりという、テンポイント流星の貴公子ばりのミュージシャンズミュージシャン風情も漂う不安定な天才でもある。
で、正直に書くとわたしはアイヴァーソンが名声を得たユニット、バッド・プラスにその登場から何もピンとくるものがないままだ。そう弾いている、弾けている以上のものを感じないでいた。
ところがJazz Tokyoで読むアイヴァーソンのインタビュー(http://www.jazztokyo.com/interview/interview102.html)、菊地雅章へのインタビュー(http://www.jazztokyo.com/interview/interview116.html)も彼だ。それに、アイヴァーソンのピアノはバッド・プラスで登場した頃から、ここ数年にものすごく感覚的に上手くなっているではないか。研究熱心にモチアンやプーさん、ジャレットやポール・ブレイの資質に深く傾倒していることがわかる。確信ある強度と深度が備わってきている。1曲目冒頭の2分弱におよぶアイヴァーソンの左右別速度で呈示するラインにもそれは現れている。
アイヴァーソンは十全に音楽のラインを言い尽くすように弾く。揺るぎない骨格を呈示するかのようだ。対抗するように対照的なのが、破顔一笑ビリー・ハートのダイナミックな崩し、ぐいぐいとかバタバタとか含みの独特のメタ・スイング感で、えも言われぬ空間を確保し続ける。ベースのベン・ストリートは、できるだけ手数少なくと指示を受けているのでは?と思うばかりの点描トーマス・モーガン流に、手堅く。ピアノ・トリオでも、比類ないすごいアルバムが作れそうなコンビネーション。
皇帝マーク・ターナーは、書き込まれたコンポジションにピッチを崩さないようにおのれの獰猛さを制御し、クラシックの室内楽を吹くようでもある。指揮棒を振っているとは言わないが、監督アイヒャーがそこにいる。視線がある。この集中した意識の中で吹くターナーのありようは、炙り出される旨みのようにじわじわと、トレードマークの微分音レベルでずれる音程で聴く者を魅惑する。
アイヒャーが考える現代的クール・ジャズの上質な完成が、ここにある。(多田雅範)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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