#  1094

『スティーヴ・カーン/サブテクスト』
text by 小西啓一


55レコード FNCJ-5558
\2700(税込)

スティーヴ・カーン(g)
ルベン・ロドリゲス(el-b)
デニス・チェンバース(ds)
マーク・キニョーネス(timbal,bongo,perc)
ボビー・アジェンデ(conga)
Guests:
ランディ・ブレッカー(flgh)
ロブ・マウンジー(key/synth)
ギル・ゴールドスタイン(accd)
マリアナ・インゴールド(vo)

1.バード・フード(O.コールマン)
2.ブルー・サブテクスト(S.カーン)
3.バラカ・ササ(F.ハバード)
4.インファント・アイズ(W.ショーター)
5.ハード(G.オズビー)
6.ネバー・レット・ミー・ゴー(R.エヴァンス)
7.カダ・ゴーダ・デ・マール(S.ゴールド)
8.ハッケンサック(T.モンク)
9.ベイト・アンド・スイッチ(S.カーン)

録音:ジェームズ・A.ファーバー@アヴァター・スタジオNY 2014.1.29/30
マスタリング:グレッグ・カルビ@スターリング・サウンド
プロデューサー:スティーヴ・カーン

ニューヨーク・ラテンの新しい成果

 スティーヴ・カーンというギタリスト、一般にはフュージョン畑の人と言ったイメージも強いのだが、他のフュージョン派とは一味異なり、その立ち位置や存在感など独特のユニークさで際立つ。有名作詞家サミー・カーンを父に持つ彼は、キャリア・スタート時からブレッカー・ブラザーズなど、数多くのフュージョン・スター達と共演、その存在をNYで知られるようになり、ジャン・ミッシャル・フォロンの美しいジャケットをあしらった、『タイトロープ』(77年)など一連のリーダー作で一躍スター・ギタリストの仲間入りを果たす。オーソドックスなジャズからフュージョン、ポップスまで楽々とこなす、柔軟で奥行の深いそのスタイルは、多くのファンを魅了してきたが、90年代の終わり頃から(ぼくにとって)嬉しいことに、ラテンの世界に急接近するようになり、近年は“ラテン・ジャズ・フュージョン”とも言えそうな、意欲的で愉しく深イイ内容の好アルバムを次々に発表、独自路線で大いに気を吐いている。

 そんな彼のラテン・フュージョン路線の集大成とも言えるのが、「55レコード」から出されたこの最新作『サブテクスト』。余談だがここの代表五野洋氏は、スティーヴのお気に入りの一人。そのホームページには自身のお気に入りが、100項目ほど載せられており、彼の人柄が良く分かる他に類を見ない貴重な資料なのだが、その中のお気に入り人物として五野氏の名前が、ボブ・ジェームスなどと共に列記されており、2人の繋がりの深さを感じさせてくれる。
 まあそれはさておきスティーヴの3年振りのこの最新作だが、彼とデニス・チェンバース(素晴らしい!)を主軸に、ベースのルベン・ゴンザレス、打楽器のマーク・キニョーネス、ボビー・アジェンデという、NYラテン・シーンの気鋭達が加わった強力無比ユニット。この顔触れだけでもワクワクものだが、それに古くからの僚友、ランディ・ブレッカーや才人ロブ・マウンジー等がゲストに加わるというのだから、もう満腹もの。さらにはラテン・ジャズに興味なしというファンにとっても、モンクやショーター、オーネットからグレッグ・オズビーまで、彼らのオリジナルをラテン・ジャズ化しようという試みだから、いささかでも興味を持って頂けるはず...。有名ジャズ・オリジナルをラテン・ジャズの語法で見直そうというこうした試みは、コンラッド・ハーウィッグ(tb)など、ラテン・ジャズ畑の意欲的ミュージシャン達がやっているものだが、この作品はそのかなりな成功例の一つと言え、スティーヴのギターもリズムに乗り良く唄い、とくにオーネットやオズビーの難曲のラテン化には、興味深いものがある。またボレロに仕立て直された、スタンダードの<ネバー・レット・ミー・ゴー>も面白く、彼の卓越したギター技が冴え渡る。
 ぼくのお気に入りはクンビアのリズムを用い、ギターと異才ゴールドスタインのアコーディオン、ウルグアイ出身のシンガー、マリアナ・インゴールドの3者が交感しあう<カダ・ゴーダ・デ・マール=海のそれぞれの一滴>。一寸ジャズとは言い難いナンバーだが、この素朴感、大変に和みます。帯には“ニューヨーク・ラテンの新しい成果”とありますが、確かにその通りの快作です。(小西啓一)

関連リンク;
http://www.jazztokyo.com/five/five783.html
http://www.jazztokyo.com/column/oikawa/column_125.html
http://www.jazztokyo.com/inaoka/v11/v11-5.html

小西啓一(こにし・けいいち)
早大ジャズ研OB。ラジオ・プロデューサー。ジャズ評論家。
ラジオ短波〜ラジオNIKKEIの看板番組「テイスト・オブ・ジャズ」の制作を40年近く担当。スイング・ジャーナル〜JAZZ JAPANで健筆を揮う。
www.radionikkei.jp/music/jazz-program/

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