# 1098
『Vincent Herring/The Uptown Shuffle』
text by 望月由美
SMOKE SESSIONS RECORDS/Off Minor SSR-1403/OFM-047 2200円+税 |
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Vincent Herring(as)
Cyrus Chestnut(p)
Brandi Disterheft(b)
Joe Farnsworth(ds)
1.Elation(V.Herring)
2.Love Walked In(G.Gershwin/I.Gershwin)
3.Tenderly(W.Gross/J.Lawrence)
4.Uptown Shuffle(C.Chestnut)
5.The Atholete(T.Allen)
6.Polka Dots and Moonbeams(J.V.Heusen/J.Burke)
7.Strike Up the Band(G.Gershwin/I.Gershwin)
8.Don’t Let It Go(V.Herring)
9.Big Bertha(D.Person)
プロデューサー:Paul Stache
エンジニア:Paul Stache
録音:2013年4月26日,27日at Smoke Jazz Club,New York City
久しぶりに聴くヴィンセント・ハーリング(as)の新作。ストレートで一直線、エッジの効いたシャープなアルトである。1曲目の<Elation>から軽快なフットワークで快調にとばす。サイラス・チェスナット(p)も好サポート、心なしかマッコイのような躍動感で爆ぜる。思わず客席から声が飛ぶ。ジョー・ファンズワース(ds)のシンバル・レガートが心地よい。こうなると、これはもう、ライヴ・ハウスの最前列に座った気分で楽しむしかなくなってくる。随所に聴かれる客席の合いの手、歓声を上げるタイミングが絶妙で「スモーク」のグルーヴィーな雰囲気がダイレクトに伝わってくる。これこそライヴ・アルバムの醍醐味であり、オーナーの信念が感じられる。
ヴィンセント・ハーリング(as)は1964年生まれだから今年で丁度50歳という脂の乗りきった年齢で、まさに今が旬、パワーが漲っている。キャノンボール・アダレイ(as)を崇拝し、フィル・ウッズ(as)から手ほどきを受けたというがまさにジャズの王道を歩んでいる。
80年代初めにライオネル・ハンプトン・ビッグバンドの欧米ツアーに参加、その後キャノンボールの弟ナット・アダレイ(tp,cor)のバンド等で注目を浴びる。アダレイ家とは縁が深く現在もナット・アダレイJRと共演している。
(2)<Love Walked In>ではゆったりとしたリム・ショットにのってヴィンセントがガーシュイン・ナンバーをストレートに吹く。思わずキャノンボールを思い起こす。ヴィンセントはキャノンボールの代名詞のような『Somethin` Else』(Blue Note)よりも『Portrait of Cannonball』(Riverside)やビル・エヴァンスとの『Know What I Mean?』(Riverside) の方が好きだということを聞いたことがあるがこの演奏を聴くとヴィンセントの音楽の姿勢がよくわかる。
(3)<Tenderly>ではカデンツアなしでいきなりテーマから入る。自信に満ち溢れたバラードである。アルトの<テンダリー>といえばどうしてもエリック・ドルフィーの『FAR CRY with Booker Little』(Prestige)を思い出してしまうが、ここでのヴィンセントはチャールス・マクファーソン(as)のような陰影に富んだ歌心に溢れるソロを聴かせる。メロディーをストレートに吹くヴィンセントはエモーショナルで力強い。ヴィンセント〜サイラスに続いてブランディ・ディスターヘフト(b)がソロをとる。ブランディはカナダ出身の女性ベーシスト。自分のバンドでは唄も歌っているがここではベースに専念、リズム・キープに徹しているところが好ましい。
(4)<Uptown Shuffle>はアルバムのタイトルになっている曲。ヴィンセントの歌いあげ方はキャノンボールそのもの。サイラスもキャノンボール時代のボビー・ティモンズよろしくブロック・コードを多用したファンキーなソロでソウルフル。ジョー・ファンズワーズ(ds)もアート・ブレイキー(ds)を思い出させるかのようなロールで二人を煽りまくり、まさに「SMOKE」はアップタウン・シャッフル状態。
(5)<The Atholete>ではヴィンセント、サイラスとファーンズワースとの掛け合いがライヴのスリル、楽しさを伝えてくれる。
(6)<Polka Dots and Moonbeams>はヴィンセントが休み、ピアノ・トリオの演奏。サイラスがカデンツァから無伴奏のロング・ソロを聴かせる。端正でリリカル、エヴァンスの『Moon Beams』(Riverside)が耳に焼き付いているファンをも納得させる力量を発揮する。途中からブラッシュとベースが加わり躍動感あふれるトリオ演奏へと展開。
ヴィンセントのオリジナル曲(8)<Don’t Let It Go>はフィル・ウッズ(as)の軽快なフットワークとキャノンボールのファンクを重ね合わせたかのようなグルーヴ感でヴィンセントの現況を最もよく表している。
全編にわたってヴィンセントのジャズの伝統への畏敬の念が素直に表出されていて好感が持てる。また、サイラス以下のリズム陣もヴィンセントの最良のパフォーマンスを引き出すようにわきを固めている点、メンバーのミュージシャンシップも素晴らしい。そして、ジョー・ファーンズワースのタイトなリズムが全体の流れを引き締めている。ジョー・ファーンズワースはエリック・アレキサンダース(ts)とのコンビで日本で何度も演奏していて、この4月にも来日しているので日本のファンも多い。
アルバム『ヴィンセント・ハーリング/ジ・アップタウン・シャッフル』(SMOKE SESSIONS)はニューヨークのジャズクラブ「スモーク」が立ち上げたレーベル「SMOKE SESSIONS RECORDS」からの一枚で、ディスクユニオンの輸入販売部門「Off Minor」が直輸入販売したもの。「Off Minor」は先にやはりニューヨークのクラヴ「Smalls Jazz Club」の作品も直輸入販売しており今回はその第2弾となる。
「Smoke Jazz Club」は1999年にオープンしたクラヴで、前身は「Augie’s Jazz Bar」。日本では「PITINN MUSIC」が新宿ピットインでの「Live at PITINN」シリーズをリリースしているのと同様の作り方で、ジャケットの装丁など丁寧な作りである。
「SMOKE SESSIONS RECORDS」は早くも次回作品としてジミー・コブ(ds)とルイ・ヘイズ(ds)の作品のリリースを予告しており、ニューヨークのジャズ・シーンの現況を伝えるレーベルとして今後さらなる期待が高まる。(2014年5月 望月由美)
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