#  1102

『ステファン・ツァピス/チャーリー・アンド・エドナ』
text by 稲岡邦弥


CLOUD/Space Shower Music
DDCJ-4012
¥2,700(税込)

ステファン・ツァピス(p,Rhodes,Korg)
アルチュール・デクロエ(b,el-b)
アルノー・ビスカイ(ds,perc)
guests:
マチュー・ドナリエ(cl)
ヤン・ピタール(g)
セシル・ジラール(vc)

1. チャーリー*
2. モントーバンの火(G.Viseur)
3. 富士山*
4. ピーターと狼(S.Prokofiev)
5. イゴー*
6. ポポカテペトル山*
7. リフレクション(T.Monk)
8. ノルウェーの森(Lennon-McCartney)
9. アトス山*
10. オフ・マイナー(T.Monk)
11. マルズ・ワルツ*
12. エドナ*
*S.Tsapis

Recorded by Francois Gaucher and Guillaume Baron at Studio Alhambra
Colbert, Rochefort, France, February 2013

<チャーリー>をプロローグに、<エドナ>をエピローグに配し、あいだに10編の小品をアンソロジーのように並べたステファン・ツァピスのいわば短編集の趣き。 ジャズ的ピアノ・トリオを基本にしているがビートは多彩、曲により使いわけられる絵筆、絵の具も硬軟絶妙、表れるマチエールは変化に富み作編曲家としてのツァピスの面目躍如といった感がある。
“チャーリーとエドナ”、映画ファンなら察しがつくようだが、チャーリー・チャップリンと女優のエドナ・パーヴァイアンスのカップル。監督と女優の間柄であると同時に私生活でも終生付き合いがあった。チャップリンの映画を地で行くように悲喜劇的ともいえる事情により決して正式な夫婦として結ばれることはなかったふたりだが。明るく、優しい<チャーリー>で始まり、メランコリックでややドラマチックな<エドナ>で終わるこのアルバム、ツァピスの頭にはチャップリンの映画の残影があったのだろうか。何れにしてもそれぞれの人生を象徴するかのようなこの2曲はチャップリンの無声映画『移民』(1917) の上映にあたってツァピスが作曲したものだ。3拍子でフットワークが軽くどこかフランスの香りが漂う。
ツァピスはギリシャ人の父とフランス人の母を持ち、パリ・コンセルバトワールに学んだ。パリを拠点にクラシックやジャズ、映画音楽など幅広い分野で作・編曲家、ピアニストとして活動を展開している。2012年にデューク・エリントン・コンペティションの<作曲>部門で一等賞を獲得するなど新進気鋭といった立ち位置にあるようだ。敬愛するジャズ・コンポーザーとして、エリントン、モンク、マルを挙げているが、このアルバムではモンクの2曲を採り上げ、ベースにソロのスペースを与えるなどトリオ・ジャズの伝統に則った演奏を展開している。語り口はモンクを彷彿させるが、5拍子や7拍子に遊ぶなど今を呼吸している。マルセル・カルネ監督の映画『マンハッタンの3つの部屋』(1965)のサントラ作曲など映画作曲家としても実績のあるマル・ウォルドロンに対してはベース・ソロをフィーチャーしたオリジナル、キャッチーなメロディを持つ<マルズ・ワルツ>を献呈し先達に敬意を表すことを忘れない。
ツァピスの作・編曲家としての才能と多彩なバックグラウンドのアウトプットを見せるのが残る7曲である。ローズとコルグで演奏される、瞼に焼き付いて離れないという富士に抱かれた河口湖での遊覧の思い出を綴る<富士山>、メキシコの神秘の活火山<ポポカテペトル山>、クラリネット、チェロ、ギターが加わるギリシャの聖なる山を描いたフォーキーな<アトス山>、これらを合わせて“ツァピス流”山3部作。エンディングで狼が顔を覗かせるプロコフィエフの<ピーターと狼>に続く10拍子の<Igor>は、“イーゴリ”・ストラヴィンスキーを連想するのが自然だが、本作では<イゴー>と表し、ツァピス本人も“バルカンのどこか”と記している。これはツァピスのテレ隠しではないか? クラリネットのメロディはたしかにフォーキーではあるのだが。風雨強かるべし<ノルウェーの森>。タブラに煽られ、リズムが錯綜する。
リズムも多彩、表情も多彩。とても一筋縄ではいかないがどの曲もとてもこなれていて懐かしささえ覚える。民衆の音楽、フォークに通底しているからだろう。解説の仲野麻紀さん(パリ在住の女流サックス奏者)が記すように、最早、“世界は西洋音楽中心ではあり得ない”のであり、“ひとつの場に多民族が共存する現在のヨーロッパの持っている豊かさをここに聴き取れないだろうか”。ひとつの場に多民族と多文化(音楽)が共存する象徴的な都市パリに生まれ、パリに学び、パリに生きる新世代の音楽家、ステファン・ツァピスのこれが現時点でのレジメに違いない。(稲岡邦弥)

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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
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#10 Contents
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第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

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