# 1104
『Jeff Cosgrove/Alternating Current』
text by 稲岡邦弥
2014 Grizzley Music |
Jeff Cosgrove(ds)
Matthew Shipp(p)
William Parker(ds)
1 Bridges of Tomorrow
2 Alternating Current (For Andrew Cyrille)
3 Victoria(Paul Motian)
Recorded by Jimmy Katz at Klaviergaus Recital Hall, NY, 2014.11.06
Mixed and mastered by 内藤克彦 at Avatar Studios, NY
Produced by Jeff Cosgrove
ポール・モチアンに私淑し、2011年には師匠の協力を得ながらモチアンの作品を集めたアルバム『モチアン・シックネス』(Motian sickness=モチアン熱中症をmotion sickness=乗り物酔いに掛けた気の利いたタイトル)をセルフ・プロデュースしたドラマーのジェフ・コスグローヴが、マシュー・シップとウィリアム・パーカーを従えたアルバムをこれまたセルフ・プロデュースしたと知り、たいそう驚いた。コスグローヴといえば前作でも分かる通り、とてもセンシティヴなドラミングを特徴としており、その彼がNYダウンタウン・シーンの大ボスと中ボスとトリオを組んだというのだ。ありていに言えば、ウエルター級かミドル級のボクサーがヘヴィー級のボクサーに戦いを挑んだようなものだ。
コスグローヴは、ワシントンDCから100キロほど北上したウエスト・ヴァージニア州のシェファーズタウンという町に住み、生活費を稼ぎながらミュージシャンを続けている、いわばローカル・ミュージシャンに近い。年齢はおそらく30代後半から40代初めではないだろうか。一方、ウィリアム・パーカーは1952年、NYブロンクスの生まれ。ジミー・ギャリソンやリチャード・デイヴィス、ウィルバー・ウエアなどにベースの手ほどきを受けた叩き上げタイプのミュージシャンだ。ピッツィカートと同じようにアルコを頻用する。衆目を集めたのはセシル・テイラーとの共演で、以降、デイヴィッド S.ウエアやペーター・ブロッツマンとの共演歴が長い。近年、NYでもっとも先鋭的なジャズ・イヴェントといわれるヴィジョン・フェスティバルを毎年夫妻で主催しミュージシャンの信頼度は頭抜けた存在になっている。2012年にリトアニアのNoBusinessレコードから6枚組ボックスセット『William Parker “Centering. Unreleased Early Recordings 1976-1987”』をリリースし耳目を集めた。また、イタリア語ながら彼自身に関する評伝が出版された事実は彼に関する内外の関心度の高さを示すものだろう。ピアノのマシュー・シップは、1960年デラウエア州ウィルミントンの生まれ。デラウエア大学を1年で中退後、ボストンのニューイングランド音楽院でジョー・マネリと、コルトレーンを教えたことで知られるデニス・サンドールに学び決定的な影響を受けたという。90年代初めから本格的な活動を開始したが、デイヴィッド S.ウエアとの長い共演を通じて衆目の知るところとなった。フリー・ジャズに足場を置きながらも現代音楽やヒップホップ、エレクトロニカにも関心を示していたが、現在ではアコースティック・ピアノに収斂しつつあるという。近年、オルタナ系のインディとしてスターとしたThirsty Ear(渇望する耳=音乞い耳)が2000年に設置したフリー・ジャズ系の<Blue Series>のキュレイターとしても活躍、精鋭や俊英たちに惜しみなく発表の場を与え、同シリーズをNYダウンタウン・シーンの音の宝庫に仕立て上げることに大いに寄与した。ECMからワールド・デビューしたサックスのティム・バーンやピアノのクレイグ・テイボーンはそもそもこのThirsty Earをホームグランドにしていたことは良く知られる。
<Bridges of Tmorrow>。ジェフがマレットでリズム・パターンを提示、マシューとパーカーが乗ってくるが、パーカーのイントロはお得意のアルコ。何かを予期させる思わせぶりなオープニング。まもなく、パーカーがピッツィカートで仕掛け、すぐさまシップとジェフが反応する。長年の共演を通じて相手を知り尽くしているマシューとパーカーの動きを窺っている節のみられたジェフがスティックに持ち替え敢然とふたりに切り掛かって行くのはすでに14分近くを経過した時。やがてマシューにリードを任せていたパーカーが猛然と走り出し、マシューとジェフが追いトリオがクライマックスを迎えるのは20分を過ぎた頃。マシューの流麗極まるソロを受けたパーカーがピッツィで圧巻のソロを展開する。ジェフのドラムソロを固唾を飲んで待つ場面だが、パーカーのエンディングのリズムにジェフが合わせてイン・テンポの演奏に。おかげでわれわれはパーカーのアルコによるソロを楽しめることになるのだが。
<Alternating Current>。「交流」の意味だが、三者による交感に加え、ジェフの現在のメントールであるアンドリュー・シリル(ds) に捧げられた演奏。セシル・テイラーとの来日公演でアグレッシヴなドラミングに印象の強いシリルだがスケール感のあるオープンな演奏でも定評があり、モチアン亡きあとの菊地雅章の共演者としてシリルの名前が挙がっていた。全編を通じてマシューとパーカーのパルシヴで地を這うような演奏が場面を支配し、ジェフはブラシに持ち替えるがリードするような場面は訪れず、やや物足りない感が否めない。
<Victoria>。モチアンのECM初期の名盤の1枚『Tribute』(ECM1048) 収録曲。ミディアム・スローのたまらなく愛らしい曲。マシューが銘器ファツィオリを生かしシングルトーンでテーマを極限の美で歌い上げる。メロディの美しさに音楽がひとりで語り出す。パーカーとジェフはひれ伏したまま。
ふたりのエスタブリッシュメントに果敢に挑戦した好漢ジェフ・コスグローヴの意気や良し!(稲岡邦弥)
* インタヴュー:
http://www.jazztokyo.com/interview/interview125.html
http://www.jazztokyo.com/interview/interview099.html
* Grizzley Music Facebook
https://www.facebook.com/grizzleymusic?fref=ts
* マシュー・シップ公式ホームページ
http://www.matthewshipp.com/
* ウィリアム・パーカー公式ホームページ
http://williamparker.net/
* Thirsty Ear 公式ホームページ
http://www.thirstyear.com/
* ポール・モチアン 追悼特集
http://www.jazztokyo.com/rip/motian/motian.html
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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