インド系アメリカ人ジャズ・アーティストは､ヴィジェイ・アイヤー(p)や、ルドレッシュ・マハンサッパ(as)ら、複雑な変拍子リズムも完璧にこなすプレイヤーらが2000年代初頭から､活躍している。本作のヒロイン、カヴィタ・シャアは、そのマルチ・カルチャー・バックグラウンドから、さらに若い世代のフレッシュな感覚で､新たなページを書き加えた。祖父母の代にニューヨークに移民したシャアのファミリーは、第3世代のカヴィタに、音楽や様々な教育を授けた。少女時代にニューヨーク市の少年少女コーラスに参加し､15以上の言語を使い､様々な音楽を歌ったことが､音楽の原体験にあると語る。またこの頃に､家庭のラジオでいつもかかっていたスティーヴィー・ワンダーや、ジョニ・ミッチェル、イギリスのラッパーのM.I.Aが、今回のアルバムにも取り上げられている。ハーバード大に進学後､ラテン・アメリカ研究を専攻しつつ民族音楽学も研究し、ブラジル､ラテン音楽への関心を拡げた。大学卒業後､シーラ・ジョーダン(vo)に出会い､その指導の下､マンハッタン音楽院の大学院に進学し､本格的な音楽キャリアを踏み出した。
　そのデビュー・アルバムのコラボレイターに選んだのは、ベニン出身で同じく様々なカルチュアル・バックグラウンドを持つ､リオネール・ルエケ(g,vo)。そしてヨーロッパ､アフリカ､アジア､オーストラリア､ブラジルと様々な地域の出身の14人のミュージシャンが集った。日本からは､マンハッタン音楽院の同窓生の挟間美帆が指揮者として､ストリングスでは､ヴァイオリンの大村朋子が参加している。アルバムは､自らのアルバム・リリースだけでなく､若手発掘にも力を尽くしているグレッグ・オズビー(as,ss)のレーベル、inner circle musicからリリースされた。
　タブラと、アフリカのマリの民族楽器の21弦ハープのコラを、アクセントにポップ・チューンや、ブラジリアン､はたまたウェイン・ショーター（ts,ss)のが、見事な換骨奪胎でシャアのワールド・ミュージックに塗り替えられていく。多彩でありながら､グローバル・ミュージックとでも言うべき､一つのコンセプトで統一されたアルバムだ。ルエケのプロデュース力と､シャアの音楽への強い意志が伝わってくる。デビュー・アルバムにしてこのクオリティの高さ。今後の躍進が､大いに期待される。（常盤武彦）

写真は；カヴィタ／ルエケ／リンダ・オー／ロジェリオ・ボッカート／ヤコウバ・シソッコ

常盤武彦（ときわ・たけひこ）
1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部）フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、「ジャズでめぐるニューヨーク」(角川oneテーマ21、2006）、「ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ」(産業編集センター、2010）がある。