ジャズ黎明期から長く活躍したドク・チーサム(tp,vo)を祖父にフロリダに生まれ、大学卒業後、上海で活躍した若手トランペッター、セオ・クラッカー。そのサード・アルバムは、2009年に上海ジャズ・フェスティヴァルで出会ったヴェテラン・シンガー、ディー・ディー・ブリッジウォーターにアメリカに呼び戻され、その全面的バックアップで制作された。ブリッジウォーターのDDB Recordsと、2013年にソニー・ミュージック傘下で、制作を再開した老舗ジャズ＆ブルース・レーベルOKeh Recordsのジョイントでリリースされた。クラッカーは、上海での雌伏をへて、満を持してロック、ヒップホップ/R&B、スウィングの融合をはかった音楽を構築した。祖父に捧げたオープニング・チューンは、高らかにファンファーレを奏で、重厚なホーン・アレンジとファンキー・リズムが葛藤する2へとつながる。ディー・ディー・ブリッジウォーターは3曲に参加している。6は、ナンシー・ウィルソン(vo)とキャノンボール・アダレイ(as)が放ったソウル・ジャズのヒット曲で、後にジョージ・ベンソン(g,vo)と、パティ・オースティンのカヴァーでも知られる。10は、ジェイムス・ムーディ(ts,fl,vo)作曲のスウィング曲で、クロッカーのストレート・アヘッド・プレイヤーとしてのポテンシャルの高さも、誇示している。11は、マイケル・ジャクソン(vo)の80年代ソウルだ。また奇しくもカヴィタ・シャアもカバーしたスティーヴィー・ワンダーの7も、リリカルなアプローチでプレイされている。ステフォン・ハリス　(vib)や、ロイ・ハーグローヴはヴォーカルで存在感を放った。ホーン・セクションをフィーチャーした一連のファンク・チューンは、期せずして2008年の、ナイジェリアの黒い大統領と異名をとったフェラ・クティの生涯を描いて大ヒットしたミュージカル”フェラ”に端を発して注目を集めた、アフロ・ビートのブームともシンクロしているように思える。当時、クロッカーは上海にいたはずで、これは偶然かもしれないが、このブームの中で頭角を現してきた黒田卓也(tp)らの動向ともシンクロして、大きなムーヴメントが起きる予感に満ちている。（常盤武彦）

常盤武彦（ときわ・たけひこ）
1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部）フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、「ジャズでめぐるニューヨーク」(角川oneテーマ21、2006）、「ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ」(産業編集センター、2010）がある。