# 1107
『Andreas Kurz Quartet / Caught Into Something Turning』
text by Kayo Fushiya
Double Moon Records; 2014 DMCHR71132 |
Johannes Enders(ts, ss)
Jan Eschke(p)
Andreas Kurz(b)
Bastian Juette(d)
1. The Cradle Maker
2. Lonely Stranger
3. Caught Into Something Turning
4. Boat People
5. Intended Dream
6. Motian
7. Sommer of 96
8. Snowman’s Land
9. Let’s Party with Marty
10. Mingus
All compositions and arrangements by; Andreas Kurz
Produced by Andreas Kurz & Volker Dueck
Recorded at Realistic Sound Studio, Munich
Mixed by Samuel Dalfert
Mastered by Daniel Scholtz
リズム造形へのあくなき追求が織りなすベーシストらしい1枚
渋みの効いたアルバムである。ファーストチューンではドイツ・ジャズにありがちな端正で破綻のない演奏が展開される。「名アルバムは第1曲目にあり」という慣例に従えば、一抹の不安がここで走るのであるが心配はご無用。第2曲目の中盤におけるコントラバス・ソロのフリーフォーム、その一斉に霧が晴れるかのごとき重厚な木の撓(たわ)みは、厳然たる存在感で迫り来る。アンドレアス・クルツは現在30代前半、ミュンヘンを中心に活躍するベーシスト。2010年には Tim Allhoffトリオのメンバーとして新ドイツ・ジャズ大賞を受賞、本作が初リーダー作となる。楽曲はすべてクルツのオリジナル、いずれもメロディとしてのコンポションを保持しつつも、変拍子を駆使した構築性はベーシストならでは。とりわけ5. Intended Dreamと7. Sommer of 96 (ブライアン・アダムスの”Summer of 69”のもじり)でみせる、リズム隊とピアノとが渾然一体となっての音数のフロウは壮観。6.Motianや9. Mingusといった要所にジャズ・ジャイアンツへの静謐なオマージュを練り込んだ構成もバランスがいい。あたかも大地に根を張るがごとき見通しのよさで、練られたクァルテット編成を聴かせてくれる。このメンバーで国際的にもっとも著名なのがヨハネス・エンダースだろうが、やはりヴェテランの余裕か。アンサンブルの一翼に徹しつつも、当意即妙に歌い尽くす。フリー系の奏者のように一音で誰かを峻別できるようなアクの強さはないものの、聴き手の想像力をくすぶる艶のある音色が徹頭徹尾つづく(ややメロディがくどく張り巡らされすぎる気もするが)。バスチァン・ユッテは10年ほどまえに筆者もベルリンで何度か聴いたことがあるが、いまではすっかり中堅どころとして安定した感がある。昨年のエコージャズ大賞受賞者。若干サウンドに甘美すぎる瞬間がなきにしもあらずだが、繊細さとダイナミズムが趣味のよいリリシズムのなかに同居するドラマー。ヤン・エシュケはクルツとのコンビも長い、ドイツでは定評のあるピアニスト。エンダースを筆頭にいずれもミュンヘン・シーンの中核を担うミュージシャンだが、ベルリンのみならずこうした地方分権の充実した文化のありようも、いかにもヨーロッパらしい(伏谷佳代)。
〈関連サイト〉
http://www.doublemoon.de/en/cddetails/dmchr71132.shtml
http://www.johannes-enders.com/de/
http://www.bastian-juette.com/presse.php
http://www.janeschke.de/
伏谷佳代(ふしや・かよ)
1975年仙台市生まれ。早稲田大学卒。現在、多国語翻通訳/美術品取扱業。欧州滞在時にジャズを中心とした多くの音楽シーンに親しむ。趣味は言語習得にからめての異文化音楽探求。
JazzTokyo誌ではこれまでに先鋭ジャズの新譜紹介のほか、鍵盤楽器を中心にジャンルによらず多くのライヴ・レポートを執筆。
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