#  1112

『山下洋輔xスガダイロー』
text by 稲岡邦弥


velvetsun/spaceshower
DQC-1297 \3,000(税別)

山下洋輔(p)
スガダイロー(p)

1. ボレロ
2. 時計遊戯
3. キアズマ
4. ボディ・アンド・ソウル
5. スパイダー
6. クルディッシュ・ダンス

録音:2012年11月22日 新宿ピットイン LIVE
レコーディング・エンジニア:奥田泰次(studio MSR)
マスタリング・エンジニア:木村健太郎(kimken studio)
プロデューサー:ノイズ中村(VELVETSUN PRODUCTS)
*ステージ・フォト:Kosuke Mori

ファン(とくにスガダイローのファン)待望の山下洋輔とスガダイローのデュオによる初めてのCDがリリースされる。デュオといってもふたり並んで4手で、などという生易しいものではない。師弟対決というか雌雄を決するというか、いずれにしてもまなじりを決するタイプのいわゆる2台のピアノによる対決である。ファンはそれを望んでいるのであり、ことの善し悪しは別として両者もそのことは充分に心得ているのである。2012年11月22日、幸いにも新宿のピットインでこの両者の対決を目の当たりにできた200名前後以外のファンに初めてその一部始終が公開されるのである。沖縄から北海道の果てまで固唾を飲んでその公開を待ち受けているファンがいるのだろう。
スガダイローの山下洋輔に対する思い入れは長く深い...。14才の時に偶然耳にした山下の演奏に衝撃を受け、「こんなめちゃくちゃなピアノでメシが食っていけるのか!?」(メイカー・プレスリリース)と山下が講師を務める洗足学園音楽大学に入学。入学試験の演奏で本人を前に山下ばりの演奏を披露、早くも挑戦状を叩きつけ、師事を申し出たという。洗足を卒業後はバークリー音大に学び、修了するや山下との対決を胸に勇んで帰国、2010年には早くもライヴで対決を実現させた。同時に「山下洋輔狩り」と称して坂田明asら歴代トリオのメンバーと共演を果たし、自らを山下のポジションに置き換え修行に励んだ。
筆者が初めて両者の対決を目の当たりにしたのは、本誌 #637でレポートした東京オペラシティ ニューイヤー・ジャズ・コンサート2014「山下洋輔プロデュース・ファイナル〜ジャズのもう一つの夜明け」(http://harumi.sunnyday.jp/JAZZTOKYO/live_report/report637.html)だった。これはタイトルが示すように落語でいう山下一門の真打ち就任披露に近いセレモニーだった。師匠の山下が、披露する弟子に牙を剥くわけはなく、それをいいことに笠に着たダイローが山下に襲いかかった。してやったりのドヤ顔のダイローに対し山下は度量の広さを窺わせた一幕。
しかし、2年前のこのピットインでの対決は様子が異なる。“ジャスの聖地”PitInnでリアル・ジャズファンを前にした山下がオペラシティのように裃(かみしも)を気取る必要はない。ガチでダイローを迎え撃った。1974年生まれ38才のダイローに対する山下1942年生まれの古稀70才。<ボレロ>は山下、<時計遊戯>はダイロー、それぞれのソロである。テーマをパラフレーズし、一片のモチーフを徐々に抽象化、ファーアウトしていく山下得意のパターンではあるが、すでに持ち味を充分に発揮している。時に美しいメロディーを聴かせる<ボディ・アンド・ソウル>を除く3曲が両者の対決ヴァージョン。山下が繰り出すさまざまなテクニックをダイローがすでに自家薬籠中のものにしており、時に判別が困難なほど伯仲したせめぎ合いとなった。しかし、注目すべきは対決ばかりではない。然るべきところでは両者の抑制が充分に働きそれぞれの曲として見事に成立しているという当然といえば当然の成果を得ている事実である。CDをリリースしたのはVelvetsunという東京・荻窪のライヴハウス/レーベルだが、さもなければいくら愛弟子の希望とはいえ山下が公開に同意するはずはない。(稲岡邦弥)







稲岡邦弥(いなおか・くにや)
兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。
Jazz Tokyo編集長。

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