# 1115
『石井彰/エンドレス・フロウ』
text by 望月由美
Studio TLive Records STLR-009 3,000円+税 |
石井彰(p)
類家心平(tp)
杉本智和(b)
川村 竜(b)
江藤良人(ds)
1.Endless Beginnings
2.Synchronized StepU
3.十二神将
4.Memory Of March
5.Circle
6.M.R.
7.I Remember Clifford
8.Message From Abyss
作曲:石井彰(*B.Golson)
プロデューサー:多田鏡子(株式会社ラルゴ音楽企画)
エンジニア:菊地昭紀 (ピットインミュージック)
録音:2013年11月26日、2014年2月26日 スタジオトライブにて
キース・ジャレット・トリオ、通称スタンダーズ・トリオが初めてレコーディングしたのが1983年『Standards Vol.1』(ECM)であった。以来、不動のメンバーで31年の長きにわたる活動でいまなお湧きつづける深遠な即興の妙はピアノ・トリオの一つの作法として脈々と続いている。石井彰(p)もそうした潮流の中でより自由な表現を求め、日野皓正グループでの活動と並行して「石井彰トリオ」や「石井彰カルテット」などの演奏で常識的なインプロヴィゼイションを超えた展開を目指している。
その石井彰の新作『エンドレス・フロウ』は石井彰のトリオとカルテットを母体に、曲によっては2ベースによるクインテットの演奏が収められているが、一曲を除きすべて石井の曲で構成され、今の石井彰のありのままの実像を色鮮やかに映し出している。なお、二人のベース奏者は(1)(2)(6)(7)(8)が杉本智和のベース、(5)が川村竜のベース、(3)と(4)は杉本と川村の2ベースの編成である。
(1)<Endless Beginnings>の冒頭の石井のピアノ・ソロは瑞々しさに溢れている。やや遅めに設定されたテンポがセクシーなグルーヴを生みだす。そしてベースとドラムが石井のソロにさりげなく絡んでゆくあたりにこのトリオの親密な間柄、親和性があらわれている。つい先日、石井彰カルテットの生演奏を聴いたが、ライヴの現場でも4人が互いにメンバー間の交流を楽しみ、喜びとしていることがダイレクトに伝わってきた。
(4)<Memory Of March>は亡き父に捧げた曲とのことであるが、ここでの石井は、キースのスタンダード・トリオの伏線となったG.ピーコックの『Tales Of Another』(ECM 1977)で初めて味わったときの静けさと透明感を漂わせ、幻想的な光景を思い起させるような清澄な響きを生み出している。ストレートにメロディーを吹く類家心平(tp)がさらにそれを倍加する。
ノン・ビブラートで朗々と吹く類家心平からは弾力のあるしなやかさとワイルドな逞しさの奥に魂の切なさを潜め、その陰影が石井の洗練を際立たせる。リップ・ノイズも生々しい。この曲は杉本智和と川村竜の2ベースでアルコとピチカートでの二人のソロ交換もあり、聴きどころの多いトラックである。
また、アルバム『エンドレス・フロウ』にはライナー・ノーツが同梱されてなく、CDの裏面に石井彰のWebアドレスが記載されていて、そこを訪れると本人が書いたライナー・ノーツが読める仕組みになっている。http://www.akiraishii.net/STLR009_webliner.pdf
そのWeb版ライナー・ノーツによると(6)<M.R.>はモーリス・ラヴェルのあるモチーフを用いて作曲したものだという。この曲でも類家のブリリアントなトランペットが光る。
(7)<I Remember Clifford>はお馴染のベニー・ゴルソンの名曲で、本人をはじめ、これまでに多くの名演が残されているが、ここではキースが1986年7月ミュンヘンのフィルハーモニック・ホールで行ったコンサートの模様を収録した『スティル・ライヴ』(ECM)2枚組の最後に演奏された曲としてとらえるほうが流れとしては自然だと思われる。3分28秒の演奏であったが熱狂して鳴りやまない客席の拍手、およそ30秒程をフェイド・アウトせずそっくりそのまま収録していたのはECMのポリシーかと思って聴いた記憶がある。石井トリオの演奏はスタジオ録音なので拍手はない、しかし思わず拍手を送りたくなるようにメロディーを大切に丁寧に奏でている。クリフォードへというよりはキースへのオマージュに聴こえる。(8)<Message From Abyss>では石井が鐘を叩き、エフェクターを聴かせたトランペット、歪ませたキーボードなど、ひごろ日野皓正(tp)ユニットで演奏している石井ならではのファンタスティックな表現が聴ける。そして江藤良人のブラシの妙技が光る。
ジャズが飽和状態になり煮詰まってしまったと云われて久しいが、アルバム『エンドレス・フロウ』からはそういった声を吹き飛ばす強さと気迫がみなぎっている。これまで日野皓正グループで演奏するかたわら着々と誠実に自己の音楽を高めてきた石井彰、そして石井彰トリオ、カルテットの演奏にはジャズ・シーンの最先端の一翼を担うのだという気概がひしひしと伝わってくる。(望月由美)
望月由美 Yumi Mochizuki
FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。
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