#  1116

『Hans Luedmann Trio Ivoire / Timbuktu』
text by Kayo Fushiya


Intuition;2014

Trio Ivoire;
Hans Luedmann(ハンス・リュドマン;piano & virtual piano)
Aly Keita(アリ・ケイタ;diatonic & chromatic balafon)
Christian Thome(クリスティアン・トメ;drums, percussion, electronics)

1.Timbuktu (3:56)
2.Heartbeats (4:51)
3.Maloya (4:51)
4.Pearls Noires (5:34)
5.Love Confessions (5:13)
6.Crum (11:21)
7.Makuku (7:37)
8.Treiben(4:07)
9.Douzentza (6:17)
10.Ndo (4:38)

Composed by Hans Luedmann(tracks 2,5,6,8), Aly Keita(tracks 3,7), Hans Luedmann & Aly Keita(tracks1,4,9), traditional Zimbabwe/ Hans Luedmann(track10)
Recorded: 9th, 10th December, 2012 @ Loft Koeln , June 2013 @ St. Antonio Studio, Koeln
Mixed & mastered by Christian Heck @ Tonart-Studio Kerpen

巨匠リュドマンによる初のバラフォン・トリオ

ピアノ・トリオの巨匠、リュドマンによる新作。並行して5つのトリオで活動する猛者だが、いずれの編成でもリズム隊が強者揃い。ドラマーだけをみてもDejan Terzic(デジァン・テルツィック)、Eric Shaefer(エリック・シェーファー)、 Jonas Burgwinkel(ヨナス・ブルクヴィンケル)、Chander Sardjoe(シャンデル・サルトへ)というドイツ語圏を代表するラインナップだが、今回のTrio IvoireではCristian Thome(クリスチャン・トメ)を迎え、バラフォンには第一人者Aly Keita(アリ・ケイタ)を擁するベースレス編成。まず先例のない楽器構成が目を引くが、基本的にピアノとバラフォンの当意即妙なデュオがアルバム全体の味わいを成す。マリを中心とする西アフリカのローカル臭と、研ぎ澄まされたリュドマンのピアノが絡み合い、心臓の鼓動にも似たビートが徐々に体内に蓄積されていく、一種の上昇感覚がある。そこに現代的な妙味で斬りこむのがクリスティアン・トメのドラムスであり、エレクトロニクスだ。恐らくは練られたコンポジションの賜物だろうが、西アフリカへの旅をアルバムのテーマとしつつも(トリオ名”Ivoire”も象牙海岸に由来する)、民族音楽特有の泥臭さは表面上影を潜め、ダイアトニックとクロマティックによる音階の交錯は幾分機械的に、ミニマリスティックに進行してゆく。ピアノも打鍵楽器であるから、このトリオは打楽器3体編成とも捉えることができよう。奏者3人の響きに対する感覚は鋭利そのものだ。ごく一部をのぞいてアコースティックが大半を占めながら、時折テクノにも似た小気味よさを醸し出す。エキゾチズムを温存しながらも、きっちりとした創り込み感はまさしくドイツ流。アルバムの最初の沸点を迎えるのが3.Maroyaで、ここでは12/8拍子とポリリズムによって沸き立つように音の粒子が乱舞する。ピアノとバラフォンによる噛み合いには片時の抜かりもない。一方、7. Makukuでは、冒頭にピアノで提示されるクラシカルなメロディが曲中みごとに記憶の断片と化してリズムに組み込まれる。

ピアノというのは酷な楽器であり、キイを押せばとりあえず音は出る。ゆえにピアニストとして一流であるか否かは、最初の一音でたちどころに露わになってしまうのであるが、ハンス・リュドマンの音色は掛け値なしに第一級である。透明度や音圧、速度如何ではなく、すっと心に染み入る。そういう意味で最速であるのだ。その研ぎ澄まされたハーモニー感覚と凛とした佇まいには、若くして師事したというヨアキム・キューンやリッチー・バイラーク、デイヴ・ホランド、武満徹らの影響がうかがわれる。それらが長いキャリアと豊富な音楽体験のうちに最良のかたちで熟成され、静かだがブレない個性として発露されているといってよいだろう。聴き終えて自然に奏者への敬意が湧いてくるアルバムである。(伏谷佳代)

【関連サイト】
http://www.trioivoire.com/

http://www.hansluedemann.de/
http://crepusculeprod.com/index.php/Fr/blog/item/aly-keita
http://www.aktivraum.de/de/biografie_christian

https://portal.dnb.de/opac.htm?method=simpleSearch&query=131967940

伏谷佳代 Kayo Fushiya
1975年仙台市生まれ。早稲田大学卒。現在、多国語翻通訳/美術品取扱業。欧州滞在時にジャズを中心とした多くの音楽シーンに親しむ。趣味は言語習得にからめての異文化音楽探求。
JazzTokyo誌ではこれまでに先鋭ジャズの新譜紹介のほか、鍵盤楽器を中心にジャンルによらず多くのライヴ・レポートを執筆。

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