# 1118
『House of Mirrors / Act One』
text by Kayo Fushiya
2014; wismart |
House of Mirrors;
Sophie Tassignon (voice)
Peter van Huffel (clarinet, alto & soprano sax)
Julie Sassoon (piano)
Miles Perkins (double bass)
1. Old Stones (Tassignon) 5:04
2. The Tree (Tassignon) 3:49
3. Breaking Point (van Huffel) 5:28
4. Mirror (Tassignon) 9:08
5. Labyrinth (Tassignon) 4:45
6. Mute (Tassignon) 3:49
7. This is The Garden(van Huffel/e.e.Cummings) 5:34
8. Act One(van Huffel) 6:27
9. Blatter I (Tassignon) 4:19
10. Blatter II (Tassignon) 5:03
11. Le Chant des Oiseaux (van Huffel/Tassignon) 3:57
Recorded & mixed ; April 2011 by Christian Heck
Mastered ; 2012
クラシカルとアヴァンギャルドが紙一重に反転するスリル
Sophie Tassignon(ソフィー・タシニョン)はベルギー出身のヴォイス・パフォーマー。現在はベルリンに拠点をおいている。本作『Act One』はパートナーでもあるリード奏者Peter Van Huffel(ペーター・ヴァン・ハッフェル)と、ピアニストのJulie Sassoon(ジュリー・サスーン)、コントラバスのMiles Perkins(マイルス・パーキンス)によるプロジェクト”House of Mirrors”名義の一作。大半はタシニョンによる自作曲だが、e.e. Cummingsなどのポエムも顔を出し現代音楽のソングブック的な味わいもある。言葉と言葉以前の肉声とは当然継ぎ目なく並置される。おそらくアーティスト独自の持ち味なのであろうが、雲が垂れ込めるかのような独特のアンニュイさが空間を支配する。タシニョンの声質は、ピアノに例えればソステヌートにも似た押し殺した粘着質を内に含みこむが、表面はクールかつ滑らかで空気を切り裂くような強さがある。音域はひじょうに広く、伸縮と跳躍力は抜群。そのリリカルな美質を盛り立てているのがヴァン・ハッフェルのリード(サックス、クラリネット持ち替え)で、他のプロジェクトでみられるような破天荒さを紙一重のところで押しとどめ、正統なプレイの端々に気配としてのみアナーキーさを漂わせる、ひねりの効いた技倆が光る。リードのみならず、アンサンブルを担うピアノとコントラバスが、安定したピッチや音色のなかに狂気を湛えたような透明性を密かに湛えているのも、プロジェクトのコンセプトがブレない所以だ。いわば装いが正統であるほどに内部の不穏さが却って透けてみえる仕組みである。その紙一重の反転が魅力だ。ヴォイスが身体ごと器楽に絡みとられ、名実ともに楽器2体として競り合う瞬間は実にスリリングで、例えば3.Breaking Pointの中盤で数分にわたって繰り広げられるヴォイス×サックス〜ヴォイス×コントラバスのフリーインプロ・デュオ部分は、単なるノイズの競り合いとして鬼気迫る。アタックの効いた単音のブツ切りユニゾンの拮抗から唐突にヴォイスが弾け出る5. Labyrinth、楽器間のフレーズの反復をアコースティックながらも豊かなエコーとリヴァーブで堪能できる7. This is the Gardenなど聴きどころ満載。光と影の反転のように自在なヴォイスの周囲で、静かな波打をみせるジュリー・サスーンのピアノがとりわけ見事で(表題曲4. Mirrors冒頭での数分にわたるソロも秀逸)、本作でも大きな収穫のひとつ。叙情性のある音色、柔/硬の起伏豊かなタッチの妙には犯しがたい高貴さがある。一旦発された音色が、跳ね返っては様々に反射して変幻するのをまるごと受け止めるような臨場感にあふれるアルバム。サウンド全体を俯瞰できる歓びに満ちた、多分に劇場的な一作だ。(伏谷佳代)
【関連サイト】
www.sophietassignon.be/
http://www.petervanhuffel.com/
www.juliesassoon.com/
http://www.mingusamungus.com/index.htm
http://wismart.de/
http://www.travassos.info/
伏谷佳代 Kayo Fushiya
1975年仙台市生まれ。早稲田大学卒。現在、多国語翻通訳/美術品取扱業。欧州滞在時にジャズを中心とした多くの音楽シーンに親しむ。趣味は言語習得にからめての異文化音楽探求。
JazzTokyo誌ではこれまでに先鋭ジャズの新譜紹介のほか、鍵盤楽器を中心にジャンルによらず多くのライヴ・レポートを執筆。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.